第198話.癖
「ウオォォォォーーーッ!お前ら許さんぞ!」
レーシーが叫ぶと同時に、今度はレーシー自身に魔力が集まる。そうすると、クモの足のようになっている内の6つの腕から木の枝が伸びてくる。
「分かりやすいな」
『そうね、凄い単純ね』
魔力の流れでレーシーの攻撃の予測がしやすい。しかし、“魔力の流れで行動が分かりやすい”と親切に教えてやる言い方はしていない。それをレーシーは“分かりやすい性格”と捉えて、さらに逆上してしまう。
「なめ腐りおって!」
さらにレーシーの感情が乱れると僅かに魔力操作も荒くなり、余計に魔力が感じやすくなる。6本の腕がどこに伸びるかが手に取るように分かってしまう。
ウィプス達とダークの紫紺の刀、ナルキのマジックソードが1本ずつを相手にして、残った1本が俺へと向かってくる。
最後に動き出した1本は、他の5本とは違い魔力が多く込められている。しかし、まだまだ魔力が注ぎ込まれ成長を続けながらも、鋭く尖った枝が俺を串刺しにしようと一直線で伸びてくる。
「ウィンドカッター」
「ふんっ」
下位魔法で対抗しようとする俺に、レーシーは少し憤慨したのだろうが、それでも取るに足りない相手と再認識する。
そして発現した3枚の風の刃が、レーシーの攻撃を迎え撃つ。同じ軌道で飛んで行くが、3枚の刃の狙いはそれぞれ違う。最初こそ並んで飛ぶ刃だったが、枝の先端部分と中間部分、それを伸ばしてくる腕を狙って、微妙に軌道や速度を変え始める。
パシッ、パシッ
俺を串刺しにしようとするのだから、それなりの硬さであったり特別な能力があるかもしれないと思ったが、呆気なくウィンドカッターに払われるように切られてしまう。そして、ウィンドカッターは相殺される事もなく、威力を残したままレーシーに向かう。
それに慌てたレーシーは、残りの腕から蔦を出して障壁を張りウィンドカッターを防ぐが、レーシーの腕2本は半ばで切れかかってしまう。その間にも次々と他の腕も同様に撃退され、掠り傷どころか触れる事さえ出来ていない。
「弱くなったんじゃないか?前の時の方が強かったな」
『違うわよ。前は大樹に傷を付けないように加減してたでしょ。今はその必要はないからよ!』
「強がっているけど、所詮は迷いの森の中に入る事が出来ないレベルの魔物なノヨ」
「取り込んだといっても、ボク達の仲間の10体だからね。そのスキルを使うなら、やっぱり強さにも限度があるよ」
「そうだな、2本の腕が切れかかってるもんな」
「ぐぬぬぬっ、こしゃくな小僧め!もう許さんぞ!」
再びレーシーの腕に魔力が流れる。初撃よりも流れる魔力も大きいが、その分魔力探知にも掛かりやすい。
しかし、それはレーシーの弱点を露にする。レーシーは、魔力を流した順にスキルを発動して腕を動かす。確かに最短で攻撃する為には最適の方法なのかもしれない。それに順に魔力を流すといっても、レーシーの魔力操作のスキルは高く僅かな時間差でしかない。
かなり意識して見なければ同時に発動しているようにしか見えないし、戦いの駆け引きの中で、それを見抜く事は難しい。
しかし、イッショがレーシーの魔力を注視している。そして、イッショの性格は真面目でこだわりが強い。嫌々と言いながらも、俺の知らない所でしっかりと魔力探知のスキルを上げている。“俺様の才能だろう”と言う声が聞こえてきそうだが、全然勉強していないといって徹夜で勉強してくるタイプに間違いない。
後は、どの順番でどの腕が動くかまでがハッキリと分かるのだから、ウィプス達が先読みして攻撃すればイイだけになる。
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ
レーシーの腕から枝が伸びた瞬間に、ウィプス達のサンダーボルトが迎撃する。最初は1m程伸びた所で迎撃したが、それが50cm、30cmと徐々に短くなる。
レーシーは最初はウィプス達の反応速度だと思ったのだろうが、2度·3度と繰り返され距離を詰められる事で顔色が変わる。
適当に攻撃して、たまたま予測が当たる事は確率的にもありえない。どこから攻撃を仕掛けるかが読まれている。それに気付いた時にはもう手遅れで、最後はスキルが発動出来ずにサンダーボルトが腕を直撃する。
「どうやって分かった?」
「それを教えると思うのか?」
『それを聞いて親切に喋ると思ってるの?親の顔が見てみたいわよ』
「残念だけど、知能は落ちてルワ」
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