第196話.アモンの実
俺に向けられる視線の先を、リッターが照らすと赤い目が浮かび上がる。しかし目は2つではなく、顔中に幾つもの目が付いている。
ナルキから引き剥がしたトレントは完全にレーシーに融合され、合一の大樹で会った時とは明らかに違う進化した姿となっている。
しかし、背中から生えた20本の腕は相変わらずで、少し残念な姿は変わっていない。地上では、背中から生えた腕がバランスを崩し、ひっくり返りクモのような姿になる事で安定を求めていた。しかし顔は逆さになり、腹は剥き出しとなっている。明らかに弱点をさらしている格好は、とても良い姿とはいえない。
それが残念な姿の理由だが、今は木々の間に張り巡らせた蔦に捕まり、空中に浮かんでいるように見える。
「見~つけた」
ニタニタと笑いながら、獰猛な笑みを見せるレーシー。
「人違いじゃないか?俺はそんな顔は見たことがないんだけどな」
「おやおや、忘れたとは言わせないぞ。こっちは、しっかりと覚えてるんだよっ!」
周囲の木々や地中から蔦が伸びて、俺達を閉じ込めるようにして囲み始める。そして、蔦にはクルミのような実が次々と現れ始める。
「俺がやられたように、時間をかけてゆっくりと痛めつけてやる。簡単に死なせはしないから、安心して楽しんでくれ!」
そして地面以外の全方向からクルミのような実が飛んでくるが、時間をかけて痛めつけると宣言した通り、一斉にではなく前後左右と方向を変えながら2·3発ずつしか飛んでこない。
「踊れ、踊れ、踊れ」
興奮気味のレーシーの叫び声が森の中に響く。
パァンッ、バシッ、バンッ
しかしレーシーが放つ実は、かなりの余裕を持って、ウィプス達のサンダーボルト、ダークの紫紺の刀、ナルキのマジックソードで打ち落とされる。
最初こそ、ウィプス、ダーク、ナルキと均等だった役割が徐々にウィプス達が主となり始める。特にリッチ戦で出番のなかったウィプス達の気合いは相当なもので、存在を主張しているようにも感じる。
ナルキは最初こそウィプス達が落とせなかった実が飛んで来る事を想定して、マジックソードを構えていた。しかし、それがそれから徐々に素振りへと変わり、今は全く関係ないスイングを確認するような動作になっている。
そして全くする事のない状況に暇をもてあましたようで、飛んでくる実の解説を始める。
「あれはアモンの実っていうんだよ。ボクのダミアの実と似ているけど全くの別物。ダミアの実の方が硬くて美味しい。アモンの実は、食べれない事はないけど食べない事をお勧めするよ」
「ダミアの実って、食べれたのか?」
「そりゃモチロンだよ。ボク達と動物は共存関係にあるんだ。不味かったら厳しい森の中の生存競争を、生き抜いていけないよ!」
「でも、ダミアの実は硬いんだろ!どうやって食べるんだ?」
「う~ん···。だから、アシスではレア種で···」
バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ
アモンの実の攻撃は次第に激しさを増しているが、小気味良い音が迎撃に成功している事を教えてくれる。
アモンの実は、予備動作もなく急に弾かれたように放たれる。どれが放たれるかを目視で見分けることは不可能に近い。
しかし、イッショの魔力探知スキルは、僅かではあるがアモンの実に魔力が流れるのを見つける。恐らくは風魔法のような一種で、空気を圧縮する事でアモンの実を弾いているのだろう。
タネが分かってしまえば後の対処は簡単で、イッショの指示に従ってアモンの実を打ち落とすだけの簡単な作業になる。だから、俺も特別にする事はない。
そんな余裕を見せる俺達に、遂にレーシーの怒りが頂点に達する。
「調子に乗って、くっちゃべってんじゃねーぞ。吠え面かかせてやる!」
「手加減した攻撃を仕掛けてきて、そう言われても困るんだがな。こっちからも、やり返せば良かったのか?」
「口の達者な奴だ。それなら本気を見せてやる!」
「ルーク、メーン、カンテ、聞いたな。加減しなくて本気を出してもイイぞ」
俺達を取り囲むアモンの実に一斉に魔力が流れ始める。時間をかけて痛めつける事を諦め、一斉攻撃で殲滅させる事を選んだみたいだが、やっと出番が回ってきたソースイやミュラー、ナルキの士気は上がる。
「そうだったな、皆の分も残してやってくれ」
「ほざけ、腹いっぱい食わしてやるぞ!」
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