第195話.南の森
「ここまで来れば、もう大丈夫でしょう」
「まだ、迷いの樹に着いただけだぞ。精霊達のいる森は続くけど、もう送りは終わりってことか?」
「カショウ殿なら問題ないでしょ。精霊達がいる森なら、私がいない方が都合が良い事もあるでしょうし、私は足手まといになります」
今のダビデは何かを悟ったのか、出会った頃の頼りなさは感じられない。迎えに来た時は俺達を見つける事が出来ず、逆に俺達を追いかけるようにして現れた。しかし、送りは何も言っていないのに俺達の前に現れ、どこに向かうのかも告げていないのに南へと向かって走り始めた。まるで別人にも見える。
「買い被りすぎだと思うぞ。それに、俺は出来るならば楽をしたい」
「ご冗談を。好んで困難な方を選んでいるように見えますよ」
「それは、見る目がないだけだな」
「そうです、私は頼りないダメエルフですので。それでは、後の事は宜しく頼みます」
ダビデそう言い残して、あっさりと去ってしまう。しかもクオカの町に戻ると思っていたが、再び迷いの樹を越える事はせずに西側へと消えてしまった。
「俺達の送りがここまでなのは、クオカの町に戻る為だと思ったけど違うんだな」
『ダビデの使命はあなたの送り迎えなら、もうダビデを縛る使命は無いって事かしら』
「任務が絶対のディードがいるから、これで任務完了なんだろ」
『自由の身なのかもしれないわね』
「んっ、“後の事は宜しく頼みますね”って何のことだ?もしかして···」
『そうね、きっとコアがここに居る事を知っているのよ』
「全てはお見通しってわけか」
コアとダビデがどれだけの関係の深さなのかは分からない。一旦俺の影の中に入ってしまえば、兄弟で話を合わせる事も出来ない。しかし兄弟ならば、あれがコピーされたコアピタンスだと見抜く事が出来るのだろうか?
『ダビデもディードも曲者って事よ。少なくても、エルフ族からもプラハラードからも解放されたのだから。兄弟揃ってね!』
「少しは強くなったと思ってたけど、そう考えるとまだまだなんだよな」
『あら、イロイロな強さがあるのだから、比べる必要なんてないわよ』
「そうだな、やれることはまだまだあるし、立ち止まるには早いな。1つずつやっていくか!」
まだ迷いの森を抜けただけで、広大な森のど真ん中にいる。後は縄張りの主の精霊達を刺激しないように、抜けていかなければならない。
そして目の前に広がるのは、鬱蒼とした木々。魔樹の森ほどではないが日の光を遮り、薄暗くて視界も悪い。
「ナルキ、迷いの森の南側の事は分かるのか?」
「残念だけど、ボクは合一の大樹から離れれなかったから、森の南側は分からないよ」
迷いの森に近ければ近い程、ナルキのような力のある中位精霊達はいるだろうし、レーシーのような魔物も存在している。それに魔樹の森に迷い込めば、キマイラのような上位精霊がいてもおかしくない。
「ブロッサとガーラは、南側の事は分かるのか?」
「私達が分かるのは、森の外周に近いところダケ。こんな迷いの樹の近くの森には来たことがないワ」
他にもこんな森はあるのだろうが、入る事を躊躇わせる何かがある。
「気味が悪い森だな。急いでいるわけじゃないし迂回するか」
『何か気になるの?』
「鬱蒼としているのに、存在感が薄く感じる。生命力がない感じがするっていうのかな?」
その時、妙な視線を感じる。複数の視線だけど、バラバラじゃない。同じ方向からこっちを見ている感じがする。
「ナレッジ、リッターを出してくれ。だけど俺達から離れたらダメだ!」
「大丈夫だけど、ここでリッターは目立っちゃうよ。他の精霊達を刺激するけど、大丈夫なのかい?」
「精霊達は刺激しないから大丈夫。恐らく、ここにはもう精霊はいないから!」
そして避けようとしていた森の中へと踏み込む。やはり木々の臭いが弱く、生命力が薄く感じられる。それだけではなく、動物達の気配も感じない。
気配探知をしても、無数に引っ掛かるはずの動物の気配が一切ない。魔樹の森でなければ、森と動物は必ず共存関係にあり、どちらかだけではここまでの森にはならないはず。
“レーシーが居る”
クオンが不気味な何かの存在を感じとる。さらに奥に進むと、クモの巣を張ったように木々に蔓や蔦が絡み付き、絡み付かれた木々は部分的に変色してしまっている。
そしてリッターの光が、クモの巣のような蔦の上に居る、赤く光る目の存在を照らし出す。
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