第175話.ゴブリンロード戦⑥

 ハンソの巻き上げた土煙が視界を塞ぐが、ナルキの左腕は枝を大きく成長させて土煙を迂回するようにゴブリンロードの側面を狙う。


 伸ばした腕の長さを最大限にしならせて、切るのではなく叩きつけるようなマジックソードの一撃。

 ゴブリンロードはサークルシールドは連続発動が間に合わず、直接左手でナルキのマジックソードを受ける。


 キッーーーーン


 ナルキのマジックソードと、ゴブリンロードの金色に輝く左手の骨が激しくぶつかり合う。

 骨だけの左手で受け止め、骨だけの右脚でその衝撃から踏み止まる。全力に近い攻撃だけに、簡単に受け止められた事はショックではあるが、それは狙い通りでもある。


 ナルキの攻撃は、最初から魔石を狙っていない。ゴブリンロードの左手を狙って、受けさせる為の攻撃なのだから。

 そして狙い通りに、マジックソードを左手で受ける事で、右脚も使えなくなる。


 体は大きく開き魔石を守るものは何もなく、がら空きとなった魔石に俺が止めの一撃を入れるだけ。


 パキンとガラスが割れるような感触と共に魔石が砕け散る。その瞬間、ゴブリンロードの身体全体の消滅が始まり、骨がバラバラと崩れ落ちる。


 そしてムーアやナレッジの望んだ通りに、魔石がキラキラと俺に降りかかり吸収が始まる。しかし今までもそうだが、何を吸収したかは直ぐに分からないのが、この世界の不親切設計なところでもある。スキルを吸収しても、何か分からないまま終わる事もあるかもしれない。


「その前に、1つ片付けておく事があるな」


『分かってるわよ。検証はその後ね』


 魔石が破壊されても、消滅しないゴブリンロードの骨。アシスの理を超えたものが存在するわけがない!


 それに、紫紺の刀を防いだサークルシールドは一体何なんだ?まるで無属性魔法で作り出した盾のようで、シェイドを防ぐ事が出来る性能。


 それにハンソの土煙で視界が防がれても、ナルキの攻撃をいち早く察知して動き出していた。気配探知を使えるなら、レアな無属性魔法の中位スキルまで使いこなせる事にはなる。


 あまりにも分からない事が多すぎる。1つだけ分かるのは、この骨はゴブリンロードではない。全く別物の存在だという事!


「バーレッジ」


 崩れ落ちている骨に魔法を放つ事で、お前はゴブリンロードではないだろと、その存在を否定する。


 しかしというより、やはり俺のバーレッジは再びサークルシールドに阻まれる。


「もう少しのところを邪魔をしおって。折角の現し身が台無しじゃ」


「リッチか?」


 再び骨が組み上がり、左腕と右脚以外の骨も僅かに黄みを帯び始めている。ゴブリンロードとチグハグな動きを見せていたのは、1つの体にゴブリンロードとリッチが存在したからなのだろう。

 しかし死霊であるはずなのに、リッターの光の中で平然と立っている。


「どうした、精霊の光が通用しないのが不思議か?所詮は下位精霊の光にしか過ぎんわ」


 カタカタと笑い顎骨を揺らして笑いだすリッチ。その間にも、少しずつ骨の色の黄みが増してゆく。


「時間稼ぎが狙いか」


「小僧ごときに、その必要もないわ」


 リッチが喋りながら、無詠唱でウィンドカッターを放ってくる。余裕を見せているようにして、不意をつくような攻撃を仕掛けるが、魔力の流れで魔法を行使した事は探知出来る。


 パキィーーーンッ


 マジックシールドでウィンドカッターを受けるが、1度受けただけでマジックシールドは壊されてしまう。


 下位魔法ではあるが込められた魔力は大きく、ゴブリンロードの残撃とは違い、それに応じた威力がある。全身が金色の骨に変わってしまえば、さらに能力は上がるのだろう。


「ほう、分かったか。小僧」


「生半可な魔法は効かない。ダーク、ナルキ、左右から挟み込む。接近戦で勝負する!」


 そう言いながらも、俺はウィンドトルネードを放つ。少しではあるがリッチの反応が遅れ、正面でマジックシールドで受けるタイミングが遅れる。

 さらに俺を援護するように、ナルキとブロッサが攻撃を仕掛ける。

 リッチの右側を狙ってダミアの実を投げるが、これもサークルシールドで防がれる。やはり、何枚かのサークルシールドを操っている。しっかりと防御してくれるのは金色に変わりきる前なら、十分に攻撃は通用する事を肯定している。


 しかし、ブロッサが放ったポイズンブレスは、防ぐつもりはないらしく避けようともしない。

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