第174話.ゴブリンロード戦⑤

 キッーーーーン


 ガラスのぶつかるような高い音が響くと、紫紺の刀が空中で止まっている。

 ゴブリンロードの体はまともに動かすことも出来きず、右手は王冠を頭の上へと載せようとしている。そこで動いたのが、金色になった骨だけの左手。ウィプス達の攻撃では全く動かなかったが、紫紺の刀には反応した。


 真っ直ぐに紫紺の刀へ手を伸ばすだけで、その動きを止めてしまう。左手の人差し指の先には紫紺の刀の切先があり、僅かではあるが触れていない。


「紫紺の刀は防がないとダメみたいだな」


「そうだね。あからさまに違う反応をするのは悪手だよね。結構慌てた動きだったしね」


 リッターの視覚を通して、ナルキの50頭がゴブリンロードや周囲の動きの変化を常に監視している。そして、その情報をナレッジ取捨選択して俺に伝えてくれる。


 紫紺の刀を防ごうと動き出した左手だが、ゴブリンロードの体と左の動きは、やはり連動しなかった。

 四つん這いの姿勢から、右手で王冠を掴んで頭に載せようとしていたゴブリンロード。その姿勢から急に左手だけが紫紺の刃にむけて動き出したのだから、体制を崩して前のめりに倒れてしまう。

 その分だけ紫紺の刀への対応が遅れ、寸前のところで紫紺の刀を防いだ。


 しかし空中で何かに、止められた紫紺の刀だが切先からはチリチリと紫の火花が散っている。刀から滲み出るシェイドが、刀を妨げるものを削りジリジリと押し込んでいる。

 しかし、何が妨げとなっているかはハッキリと分からない。


「ナルキ、ダミアの実を投げて」


 ナレッジの指示で、俺の2本目の右腕となっているナルキの腕からダミアの実が放たれる。

 ダミアの実も、紫紺の刀と同様に防がれてしまうが、それで浮かび上がったのは直径で1mほどの透明なサークルシールドの存在。

 範囲を外れたダミアの実は、遠くて飛んでゆき、シールドで防がれたダミアの実は下へと落とされる。しかし、その衝撃はシールドを少しだけ押し込む。


 そして、さらに追撃をかけるように、もう1本の紫紺の刀が、サークルシールドに突き刺さる。


 ビキンッ


 初撃を防いだ時の甲高い音でなく、砕けたような音が響く。しかし、まだ2本の紫紺の刀は空中で止まったまま。


「もう一撃か!」


 サークルシールドを破壊する為の一撃をどうするか?


 俺のマジックソードは、魔石を狙う必要がある。それにサークルシールドを攻撃すれば、ゴブリンロードに時間を与えてしまう。

 ナルキに持たせた左手のマジックソードも同じだろう。攻撃した時の衝撃は、2対4枚の翼で加速させた勢いを落としてしまう。当然黒翼の剣羽根も加速中で使えない。


 俺達を追い越して、それなりの衝撃を与える攻撃は···。


「あまり見せたくないが、フォリーの出番か」


 紫紺の刀が通用しているのだから、フォリーのシェイドはサークルシールドを破壊する一撃となり得る。

 しかしサークルシールドを突破したとしても、魔石を破壊出来る確証はない。ただ隙が出来たチャンスであるというだけ。しかし、1度ミスをすれば、再び同じミスを繰り返してくれるとも思えない。


 ここを勝負どころと捉えて切り札であるフォリーを見せるか、まだ温存するべきなのか?


「ハンソッ!」


 そこにソースイの声が響くと、紫紺の刀の上にハンソが召喚される。それも空中にポッと現れたわけでなく、最初から落下してきたかのように勢いを付けて!


「グラビティ」


 さらに重力操作で、ハンソは加速する。最初から遅くはなく下手なストーンバレットよりも早かったが、さらなる加速。


「こんな召喚が出来るのか」


 呆気にとられる俺にムーアが声を掛けてくる。


『こんな召喚をする相手なら契約しないわよ。ソースイとハンソの関係が歪んでいるのよ!』


 物理的な破壊力だけであれば間違いなく俺達の中でも一番で、ダークもハンソを避けて逃げた。ダミアの実では全く動く事もなかったが、ハンソには紫紺の刀を折られるような脅威を感じたのかもしれない。


 それはゴブリンロードも同じで、サークルシールドが破られると感じた瞬間に、骨だけの右脚1本で後ろに回避する。


 そして圧倒的な破壊力で、ハンソはサークルシールドを粉砕して地面へと突っ込み、大きな土煙をあげる。しかし土煙が巻き起こっても気配探知で、ゴブリンロードの動きは手に取るように分かる。


「ナルキ、側面から狙え!」

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