第169話.苦手意識

 洞穴は長い1本道が続いて、分岐や大きな空間も探知出来ない。だから暫くはワームが喰らい尽くした跡でしかなく、何も残されていない事は分かる。


 ワームがスケルトンを喰らい尽くしたのであれば、この先にスケルトンやゴブリンロードは残っているのだろうか?それとも、食物連鎖のような関係が成り立っているのだろうか?


 変化のないままに、洞穴は地下深くへと潜ってゆくが、あからさまに不満気な表情を作り、渋々と先頭を歩いているハンソの姿がある。そして、その後ろを鬼の形相のソースイが歩いている。オニ族なだけに、その表情は様になっている。


 洞穴の奥に進むのに、必ずしもハンソが先行して進む必要はない。ワームなら気配探知で把握出来るので、それから召喚しても十分に間に合う。

 しかし今は、ソースイが召喚する感覚になれたり、ハンソとの連携を強める意味合いが強い。


「主従関係というより、囚人ハンソと看守ソースイの組み合わせって感じだな


『それでも、ハンソはカショウよりソースイの方がイイみたいだから、相性というのは分からないものね』


「確かにな。あの形相のソースイの方が遥かに厳しそうだけど、ハンソにとっては何か通じるものがあるんだろうな」


 何故ハンソが洞穴の奥に進みたがらなかったのか、理由は敢えて聞かない事にしている。

 ツルハシを遠慮なくハンソへと叩き付けたソースイの行動で、その理由は理解しているだろう。今聞かなくとも、その内に話してくれる機会は来ると思う。今はソースイがしっかりと締めてくれればイイ。



 奥に進むにつれて、急に魔力が濃くなり始める。地中から湧き出し、地表へと現れる魔力溜まり。何故地中の魔力が濃いのかは分からないが、今は原因不明に魔力を吸収してしまう俺の体質には少し厳しい。


「流石に魔力が濃いな。これ以上濃くなると、魔力吸収を防ぐ事が難しくなるな」


『ええ、確かに少し濃すぎるわ。地下全体が魔力溜まりになっている感じね』


「他にもこんな場所ってあるのか?」


『こんな地下深くまで潜ることなんてないから、私には分からないとしか言えないわ。タカオの廃坑よりも深く潜ってるでしょ』


「そうだな、深く潜り過ぎるのは危険かもしれない。ずっとこの魔力の濃い環境が続けば、何らかの異常や変質を起こしても不思議はないな」


 タカオの廃坑、オオザの崖の奥にあった底の見えない穴。地下深くには何か秘密があるのだろうか?ゴブリンやコボルトは、そこに何かを求めたのだろうか?


 まだまだ魔力は濃くなり続け、この場所に留まる事に限界を感じ始める。そう感じた時に、クオンが気配を探知する。


“何か来る”


 カツッ、ガチャッ、カツッ、ガチャ


“違う、音”


 何かが近寄ってくる足音だが、1歩1歩の足音が違う。右と左で違う足。それは、右脚が骨だけとなったゴブリンロードの足音で間違いないだろう。

 そして、その足音が次第に早くなる。オオザの崖では、身体のバランスが崩れて長剣を支えとする事で穴の中へと飛び込んだが、今は問題なく動けるのだろう。


「ここで引いたら、興醒めして帰ってくれるかな?」


『逆でしょ。私達を探してるのだから、きっと怒るわよ!』


「古の滅びた記憶か。ゴブリンロードから得られる力もあるのだろうけどな···」


『んっ、どうしたの?』


 アシスに来て初めて勝てないと感じた相手がゴブリンロード。戦う力だけであれば、ゴブリンキングよりも上で、あの時に逃げてくれたからこそ無事でいられたのだと思う。


「勝てないと感じさせられた相手だけに、何となく苦手意識があるのかな?」


『何言ってるのよ。私達もかなり強くなってるわ。ダメな時でも、逃げれるくらいの力は持ってるわよ!』


「そうだな。ソースイ、ハンソ一旦下がってくれ!」


 俺よりもソースイとハンソは、ゴブリンロードの実力を近くで目の当たりにしている。それだけに、俺以上に表情は固い。


「まあ、向こうから来てくれるんだ。探す時間が省けて、準備する時間が出来たと考えよう!」


 洞穴の奥からゴブリンロードが見えてくる。以前と比べると、膝下から剥き出しとなっていた骨は太股まで広がり、左腕も肘まで剥き出しとなっていた骨が肩口までに広がっている。

 しかし剥き出しとなった骨は、白から金色へと変わっている。それが進化したのかどうかわ分からないが、何とも言えない禍々しさは増している。


 そして俺達を見付けると、右手に持った黒剣を一閃する。

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