第150話.感情の精霊達
花火のように弾けて、しだれ柳のような火の粉がスケルトンに降り注ぐ。
『「綺麗ね」』
ムーアだけでなくブロッサも見入ってしまう。ちらちらと瞬く火の粉は美しさや儚さを感じさせ、火の粉が付着した瞬間にスケルトンの消滅が始まる。
魔力によってつくられた火の粉は、通常のものとは違い簡単には消すことが出来ず、魔力が尽きるまで創造された火の粉であり続ける。それが火属性の魔法が森の中では嫌われる理由でもある。
ちらちらと瞬きながらゆっくり降り注ぐ火の粉に、淡い輝きを放ち消滅していくスケルトン達と、しばらく幻想的な光景が流れる。
『こんな光景は見たことがないわ』
「ああ、元の世界の光景だからな」
「ヴアアアァァァーーーッン!」
その光景を打ち消すように、野太い声が響きわたる。空気の振動が波紋のように広がり、それは後方にいたスケルトンを消滅させながら、こちらへと向かってくる。
「バーレッジ」
咄嗟に飛ばしたマジックシールドが、その振動を分散させるが、冷たい風が吹き付ける。体ではなく心を凍りつかせるような、独特の感覚がする。
そして消えたスケルトン達の中心に人影が見える。そしてその人影は、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。ローブを着てフードを深く被っているが、身長が高く大柄な体格をしていて、明らかにスケルトンとは違う。
一瞬だけゴブリンロードの姿が思い浮かぶが、それにしては身体が大きすぎるし、ゴブリンロードなら黒剣を持っているはず。
そして人影が近付くに連れて、ただならぬ気配がヒシヒシと伝わってくる。
『哀しみの感情ね。感情でスケルトンを消滅させれるなら、かなりの力を持ってるわ!魔物堕ちしたかしら?』
「魔物堕ちって何なんだ?」
『イッショのように、魔物に取り込まれて利用される事よ。精霊であっても魔物に利用される事があるよの。もちろん魔物にそれだけの知性と器があればだけどね』
「イッショ、そうなのか?」
『まあ、何だな。そう、迷いの樹の毒は精霊であっても影響を受けてしまうだろ。精霊でも惑わされる事はある。それにハーピロードはそれなりの器だっただろ!』
その間にも、ゆっくりゆっくりと人影が近付いてくる。フードを深く被って容貌は見えないが目が赤く輝き、肩を大きく震わせて泣いているのが分かる。
「エッグ、エッグ」
哀しみの精霊に支配されれば、こんな泣き方になるのか?しかし強い哀しみとは、こんな程度なのかと少し違和感を感じる。
『違うわ、魔物じゃなくて精霊よ』
「だって赤い目をしてるぞ」
『分かりにくいかもしれないけど、赤い目をしている精霊もいるのよ。そうよね、イッショ!』
「そうだな、俺様と一緒の精霊っぽい···かな」
「イッショらしくないハッキリとしない言い方だな」
「感じられる魔力は哀しみの精霊そのものなんだがな、俺様の知っているのは全て華奢な女でな」
「もう少し近くで見てみるか。もう実体化出来るんだろ」
「いやっ、待て、待ってくれ。ブレスレットの中からでもっ」
「イッショ、出てこい!」
そこに現れたのは、怒りの精霊とは思えない可愛らしい豆柴が一匹いる。
「もしかして、これってイッショなのか?ムーア、知ってたのか?」
『ええ、知っていたわよ。まだ実体化出来るようになったばかりだから、こんなものでしょ』
「だから、ブレスレットの中で大丈夫と言ったろ!」
「エッグ、エッグ、エッグ」
俺達に無視されていた精霊らしき存在が、泣き声が大きくなる。再び皆の視線が、目の前のローブ姿の精霊に集まるが、泣き声も体格もどこをとっても男にしか見えない。
それに哀しみの精霊は泣いているのが普通なのだろうか?それだったら、怒りの精霊のイッショは常に怒っている事になる。しかしイッショは、周りを怒らせる事があっても本人が怒っているのを見たことはない。
せめて、“しくしく”とか“さめざめ”という泣き方をしていれば、違和感なく哀しみの精霊と信じれたのかもしれない。
目の前の精霊の目がさらに赤く輝き、魔力が集まる。感情の精霊同士の真向勝負になるのであれば、力を落とした豆柴のイッショとヒト型の精霊の力比べとなるのだろうが、不思議と怖さはない。
「ヴアアアァァァーーーッン!」
「バーレッジ」
そして至近距離から、咆哮のような泣き声が放たれ、少しでもイッショを助ける為にバーレッジを放つ。
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