第148話.スケルトン

 俺がコインを弾くと、ムーアとガーラが表に出てくる。警戒すべき爺エルフは選抜隊を選ぶ為に広間に残り道幅が広がった事で、好奇心に勝てなくなったようだ。


 回転して落ちてくるコインを左手で掴むと、全員の視線が左手に集まる。そっと握った手を開く。


「表か。表なら右を選ぼう!」


 しげしげと見ていた、エルフ族の指揮官が気になって聞いてくる。


「何をしたのですか?それは何かの魔法かマジックアイテムなのですか」


「ただのコインだよ。表が出たら右で、裏が出たら左。2択の場合しか使えないけどな」


「そんなやり方で決めるのですか?」


「他にどんな決め方があるんだ。棒でも倒すのか?」


 そう言うと、精霊樹の杖を地面に突き立ててみせる。


「ゴツゴツしているし、この杖も微妙に偏心しているから、どうしても癖がでてしまう。やっぱりコインが一番じゃないか?」


 精霊樹の杖を棒倒しの道具にしようとした俺を見て、エルフの指揮官は絶句してしまう。そして、やっとの思いで言葉を捻り出す。


「いや、その、意外と原始的な方法で決めるのですね」


「そんなもんだろ。それじゃあ、右は俺達に任せてくれ!」


 そして何の躊躇いもなく右を進み、それをエルフが見送る。呆然と佇むエルフの姿が小さくなり姿が見えなくなると、ムーアが話し掛けてく。


『右にゴブリンロードの臭いがするの?』


「ああ、間違いない。明らかに違う臭いが混ざっている」


『何でコインなんて投げたの?その場で適当に決めても良かったんでしょ』


「臭いを嗅ぐ時には、どうしても呼吸が変わるから、そこに気付かれたくなかっただけだよ。どうしてもコインに目が行くだろ。それに今頃は、爺エルフが困惑しているだろうな」


『ねえ、どっちか判断出来ない場合は、私がコイントスをやってもイイの?』


「イイけど順番だからな!」


 コイントスの順番を決めつつも奥へと進むが、死霊の気配は光が近付くと避けるように離れて行く。ヴァンパイアほどではないが、日の光が与える効果は大きいようだが、遂に死霊達の動きが止まる。

 そこから先が行き止まりになっているのか、それとも死霊達を引き留める存在がいるに違いない。


「クオン、どうだ?」


 ”まだまだ続く。終わってない”


「ゴブリンロードの臭いは薄いな。そんなに都合良くは現れてくれないか」


 それでも、このまま行けば初めて死霊と接触する事になる。


“沢山、スケルトン”


 クオンが、通路の奥でガチャガチャとなる音を探知する。スケルトンやゾンビといった存在には生きていた時の姿があり、その結果としての今の姿がある。

 何もないところから、突然スケルトンとして現れる事は考え難い。それを考えると、スケルトンの正体が何になるのかで、この異変の元凶が見えてくるのかもしれない。


 そして通路はさらに広がりを見せて、奥に大きな空間が現れる。野球が出来そうなくらいの開けた空間に、数千ではなく万に近い数のスケルトンが蠢いている。

 その大きさはどれもが小さく、ゴブリンほどの背丈しかない。


 リッター達の光に押されているが、これ以上後ろに下がる事は出来ないスケルトン達。しかし、リッター達の光を浴びても存在が消滅するわけではなく、力を弱められるだけのようではある。


「キエエエッーーーッ」


 そこに、少し野太いような叫び声が響き渡り、光から逃げようともがいていたスケルトンの動きが止まる。


「ギエエエッーーーッ」


 再び、いや、今度は確実に野太い叫び声がして、スケルトン達がガタガタと骨を震わせながら俺達に向かって動き始める。

 それぞれがボロボロに錆びた剣やナイフを片手に持ち、その姿はどことなくゴブリンと似ている。


 ウィプス達が広がりを、ルークの操るマジックソードがゴブリンを指し示して準備万端であると催促してくる。

 光の効果のせいか、スケルトンから感じられる魔力にも驚異はなく、精霊達もソースイ達も戦う事しか考えていない。


「分かったよ、始めようか」


 ゆっくりと動き出したスケルトンに、一斉に攻撃をしかける。いくら骨の体でも、密集しているスケルトンに狙いをつける必要はなく、攻撃を行えば必ず複数を巻き込んでくれる。


 特に魔法の攻撃には弱く、ウィプス達のサンダーボルトだけでなくルークのマジックソードが触れただけで、スケルトンの体の消滅が始まる。


 その反面、物理攻撃には強さをみせる。ソースイの攻撃で、スケルトンの体は簡単に砕けてしまうが、砕けた骨は再び再構築されて元の姿に戻ろうとする。

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