第145話.エルフ族の戦い

 エルフ族が、光の玉に関心を示した理由が死霊との戦いである事は分かった。ダーク達ヴァンパイアが、日の光がダメであるのと同様に、死霊達も日の光を苦手とするのであれば、効果は大きいのだろう。


 しかし異世界から来た俺にとっては、何が精霊で何が魔物なのかは、まだ良く分からない。原初の精霊の魔力によって産み出されたのが精霊で、そうでないものが魔物でしかない。

 スケルトンやグール、リッチにレイスがどんな存在なのかは今一分かっていないが、そこはムーアやガーラにお任せになるだろう。


 問題は、ダーク達ヴァンパイアは月の光でさえも受け付けないが、死霊は月明かりでは問題なく行動出来てしまう。太陽が沈んだ間は洞穴から出てきて、森を目指して動き始める。

 森の中にまで入ってしまえば、森の木々が日の光からを遮ってくれる事を知っているかのようである。


「今のところ死霊の侵入は防げているのか?」


「洞穴から出てきた死霊との戦いなら問題はありません。しかし、それでは地面の陥没を止める事は出来ません。それに洞穴の入り口で戦うとなると、精霊樹を受け止めている根を傷付けてしまいます。」


「という事は、今は洞穴の中に入って戦っているのか?」


「洞穴の奥にいる元凶を止めれば、急速な洞穴の拡大を止めれるでしょう。しかし洞穴に潜っての死霊との戦いは、特にエルフ族にとって不利なものになります」


 コアピタンスによれば、困難な理由は3つある。


 1つ目は、単純に橋頭堡を築き維持することの難しさ。光の届かない闇の中では、アンデッドの魔物は24時間襲いかかってくる。

 魔物達の猛攻に耐えつつ橋頭堡を維持し、先に進むための食料や道具を揃えなければならないが、洞穴の入口付近にはそれだけの空間はない。

 洞穴の拡大を止める為に、洞穴の中で穴を掘る。そんな矛盾が起こっている。


 2つ目は、エルフ族の適正の悪さ。風属性や水属性の精霊と相性の良いエルフ族にとって、地下での戦いは不利になる。風や水がない場所でも精霊を召喚する事は出来るが、力を発揮させるには倍以上の魔力が必要となる。


 3つ目は、食料備蓄の少なさ。エルフ族は農耕ではなく狩猟採集社会になる。広大な森のからの恩恵は大きいが、エルフ達は必要以上に採集をする事をしない。それにはエルフ族の住むクオカが、これまで侵攻された事がないというのも影響している。


「光の玉があれば、2つの問題は解消出来るのか」


 ローブの中から光る玉を取り出すと、それを見たコアピタンスは黙って頷く。

 光の玉は、弱いアンデッドなら近付けなくなる。それに、光の精霊も召喚しやすくなり魔力消費も抑える事が出来る。


「それだけではありません。損耗率が改善されれば、その分が食料確保の人員増に繋がります。現状のままでは、持ちこたえられるのは···長くて1ヶ月くらいでしょう」


 予想以上に持ちこたえれる時間は短い。現状のまま時間を過ぎるのを待つだけではないだろうし、まだ他にも手はあるのかもしれない。それでも光の玉以上に、有効な手段はないように思える。


「光の玉があればどうなる?」


「それは、やってみなければ分かりません。まだ把握出来ているのは、洞穴の入口と時折現れるゴブリンロードだけですから」


「怪我をして魔力が尽きていたエルフ達は、洞穴から戻ったエルフなのか?」


「皆、ゴブリンロードと戦って傷付いた者達ばかりです」


 オオザの崖のゴブリンロード。ゴブリンキングが復活させようとしたが、俺達が邪魔したことで不完全な状態となり、闇の中に消えてしまったゴブリンロード。ここに現れたゴブリンは、オオザの崖のゴブリンロードで間違いないだろう。

 あの時に止める事は出来なかったし、ただ逃げて行く背中を見守ることしか出来なかった。


「怪我を全ては治さないんだな」


「傷付いた身体を完全回復させても、魔力が枯渇した状態ではまともに動くことは出来ません。枯渇した魔力をマジックポーションで強制的に回復させのは命を消耗させます。それに無理して動こうとする者は必ず出てくるので、やむを得ない処置です。それに、マジックポーションにも限りもありますし」


「森にはユニコーンのような薬の精霊も居るんじゃないか?」


「高慢で気難しい精霊が素直に協力はしてくれないでしょう。それは混乱を起こすだけでしかありません」


「今なら大丈夫だと思うぞ」

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