第144話.悪夢再び
精霊樹の周り一帯が陥没し、クレーターの中央に立つように精霊樹が鎮座している。
地上は焦土と化したように黒く染まっているが、地中にはまだ木の根が残され、それらが複雑に絡み合うことで網のようになっている。地面は陥没して土は下へと落ちてしまったが、精霊樹はその木の根の網にかかり、それ以上は下がる事がない。
さらに地面の陥没は続き、網のような根の下からは洞穴が現れている。
「陥没の原因は、下に現れた洞穴なのか?」
「はい、そうです。この森だけでなく、アシスの地下には広大な洞穴が広がっていて、物凄い早さで拡大しています。それが陥没の原因となっています」
今のコアピタンスは、エルフ族族長ではなく案内人のような口調に変わっている。これが本来の喋り方なのだろう。
しかし、初めて会う異世界のヒト族を簡単に信用し、衝撃に思える光景を見せてしまっても大丈夫なのだろうかと不安にも思ってしまう。
「どうされましたか?」
「ちょっと待ってくれ。いきなり洞穴とか情報が多すぎて整理出来ないんだけど···」
「そうでしょうね。ですが、全てを知らなければ適切な判断は出来ませんし、1つの情報で対応は大きく変わるはずです」
「それはそうなんだが···。まず今のままで、精霊樹は大丈夫なのか?」
「合一の大樹を通ってきたはずですよね。まだまだ地面の陥没は続き、洞穴はもっともっと大きなものになります。その内、この辺り一帯も地中に飲み込まれてしまう程になるでしょう」
「合一の大樹の周辺は、とくに陥没していたようには見えなかったけど···。まさか盆地のような地形全体が陥没したというわけじゃないだろう?」
「残念ですけどそうなります。何百年の時をかけて少しずつ陥没しました。最近になって、あれも洞穴が広がった影響である事が分かりましたが、それに対して打てる手がないのが現状です」
「この辺り一帯が飲み込まれてしまったら、精霊樹はどうなるんだ?」
「精霊樹の存在自体は問題ないでしょう。地中に飲み込まれれば、洞穴にいる多くの魔物は消滅するかもしれません。しかし精霊樹から認められるような魔物が現れた場合は、計り知れない力を持った魔物が誕生する事になるかもしれません」
「精霊樹が魔物に力を貸す事はありえるのか?」
「精霊樹の杖は、どこにあったのですか?」
「オオザの崖のゴブリンキングが持っていたが、本来とは程遠い姿になっていたし、それは力を与えた事にはならないだろう」
「少しでも魔物が精霊樹の力を利用出来た事は事実です。それに、カショウ殿には魔物が混ざっていますが、それでも精霊樹の杖はカショウ殿を所有者として認めました。違う世界のヒト族にも力を貸すのだから、この世界の魔物に力を貸さない理由にはなりません」
「俺の場合は精霊とも融合している。どんな精霊かまでは分からないが、力のある精霊である事は間違いない。その精霊の影響じゃないのか?」
「だけど、力を行使しているのはカショウ殿本人です。それに、魔物と戦ってきたカショウ殿は魔物の事をどう感じ、どう思っているのですか?」
アシスに来て、ゴブリンやコボルト、ハーピーと戦ってきたが、絶対悪の憎むべき存在なのだろうか。
「古の滅びた記憶···」
「やはり、何か知っているのですね」
「アシスの理ではない、別の理が存在しているかもしれない。元々あったものなのか、新しくつくられたものか、何かまでは分からない。それに、俺が全てを知っているわけではなく、感じとった程度でしかない」
「後、私から言えるのはこれが最後です。最近になって洞穴の奥から、黒い長剣を持ち左手と右脚が骨と化したゴブリンが現れました。死霊達はゴブリンに力を与え、力を授けられたゴブリンはスケルトンやゾンビを率いて地上を目指しています。そして、“返せ”と繰り返すように呟いています」
そう話すコアピタンスの眼は鋭く、最初から全てを見透かしていたのかもしれない。
「最初に言いましたよね。異変が起こっているのはクオカだけではないと理解していると!」
「今治療されているエルフ達は、ゴブリン達と戦って怪我した者達なのか?」
「はい、そうです。精霊樹が地中に飲み込まれる前に、ゴブリンに率いられた死霊達が大量に溢れて出てくるでしょう。そして死霊達に有効な手段は光です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます