第128話.ヘカトンケイル

 巨大な木といっても複数の木々が集まった集合体なので、それぞれから出ている枝は普通の大きさでしかない。

 幹は太くなっているが、それから伸びる枝は細く見えアンバランスな姿形をている。


 巨大な木の周りにはヘカトンケイルの姿は見えないとなれば、残るのは上しかないだろう。


「クオン、何か居るのが分かるか?」


“落ちてる、今”


「やっぱり上か」


 この木の高さは1番高いところで100mはあるだろうか?上を見上げると大きな塊が降ってくるのが見える。

 無数の手らしきものが見えるので、ヘカトンケイルである事は間違いないが、無数の手のせいで重心は上半身へと偏り頭から落下している。

 少しでも落下の速度を落とそうと、手をバタつかせ枝を掴もうとしているが、巨体に対して枝はあまにも細すぎる。


「この木に宿った精霊のくせに、この木を傷付けているんじゃない?」


『残念な精霊かもしれないけど一生懸命そうよ。このまま見てるの?』


「ソースイ、ゼロ・グラビティの出番だぞ」


 落ちてくるタイミングを見計らっていると、ヘカトンケイルが幹に手を伸ばして掴み始める。何本かの手が幹に触れるが、若干減速となっただけで落下を止める事は出来ない。


「ゼロ・グラビティ」


 なるべく上方で魔法を発動させ、それと同時に黒翼から風を送り、少しでも落下の勢いを殺す。

 風魔法を使って落下速度を落とす事も考えたが、精霊樹の杖の制御は難しく威力が強くなり過ぎれば、幹や枝葉にダメージを与えてしまう。


 ドオオォォーーン!


「やれるだけの事はやった」


『そうね、光の精霊をヘカトンケイルに見せる約束はしたけど、落下するヘカトンケイルを助ける約束はしていないわ』


 それなりに減速もしたが、あの加速を止める事は出来得るべくもなく身体は地中にめり込んでいる。


「死んでないよな」


『精霊だから、死なないわよ。存在が限りなくなくなるだけで!』


 恐る恐る覗いてみと、無数の腕がモゾモゾと蠢いているのが気味が悪いが、存在は消滅はしていないようだ。

 ヘカトンケイルは予想通りトレントの集合体のようで、腕も身体も樹皮で覆われている。そして身体中には無数の瘤があり顔のような形をしている。


 1つの瘤の顔と目が合ったような気がして、反射的に言葉が出てしまう。


「大丈夫か?」


「やあ、手を貸してくれるか?」


 ヘカトンケイルの手が一斉に、俺へと向かってくる。まるでホラー映画のワンシーンのようで、1つの手を掴むと他の手も一斉に掴みかかってきて引きずり込まれるような気がする。

 それに俺の倍以上の身長があるヘカトンケイルに俺1人では助けてはやれない。


「皆、手伝ってくれ」


 そう言って、ヘカトンケイルに手を差し出すが、他から差し出される手は無い。

 物凄い力で引き寄せられるのに耐えながら、慌てて後ろを振り向くと、精霊達の姿は消えソースイとホーソン、チェンは後退りしている。


「早くしろーっ!引き込まれるっ!」


 慌てて3人が駆け寄り、ヘカトンケイルに手を差し出す。1つの手に群がるのは複数の手だけではなく、蔓や蔦のようなものが伸びて腕へと絡み付いてくる。それは腕から身体、頭へと伸びてくる。

 終わったかもしれないと覚悟を決めた瞬間、ムクッとヘカトンケイルの身体が起き上がり、握られた手や腕も力から解放される。


「誰か分からないけど、助けてくれて有り難う」


「いや、どういたしまして。迷い人のカショウです」


 見た目の奇怪さからは想像出来ない明るい声で、フレンドリーな感じで接してくる。

 初めて合うのに急に距離を詰められたら、逆によそよそしい態度で返してしまうのは仕方ないと思う。


 ただそれ以上に50頭に100手がどうしても気になってしまう。間違いなく数は少なく半分もない。目で数えているのがヘカトンケイルにもバレてしまう。


「おや、気になるかい。今は20頭に40手だよ。全部出したら動けなるしね、3交代制なんだよ」


「あ、はい、全部で60頭120手なんですね。イロイロと事情があって大変なんですね」


「それにしても、珍しいね。ヒト族がこんな森の奥までよく来たね!もしかして、魔樹の森を抜けてきたのかい?」


「守護者のキマイラから頼まれたんですけど、光の精霊を探してますか?」


 そして光の精霊リッターを召還すると、ヘカトンケイルの表情が変わる。

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