第123話.ゴブリンキングの杖

「ヒト族の小僧、その杖を何処で手に入れた?」


 キマイラの前では、俺の最大級の攻撃も微風にもなっていない。その声には弱者を見下すような感じはなく、俺の持つゴブリンキングの杖に関心を示す。

 誤魔化せそうな相手ではないし、誤魔化そうとすれば無事にこの森を出ることは出来ないだろう。


「ヒケンの森の北にあるオオザの崖の洞窟で、ゴブリンキングを倒して手に入れた」


「ヒケンの森か・・・」


 独り言のような短い呟きの後で、キマイラは少し考え込むようにブツブツと何かを言っているが、そこまでは聞こえない。


「そうか分かった。小僧、その杖に魔力を流してみろ」


 キマイラに言われた通り、ゴブリンキングの杖に魔力を流し風を纏わせる。


「やはり、全然ダメになっておるな。見る影もない」


「これで、ダメになってるのか?それでも俺にとっては優秀な杖なんだけどな」


「微風も起こせない性能なわけがなかろう。そこに杖を置いてみろ」


 どうやら俺の最大級の魔法は、攻撃として認識されていない。見下されるよりも、下の扱いなんだと気付かされる。

 下位精霊も中位精霊も強さには幅がある。この程度までは下位で、ここからが中位のように区別される。

 しかし、上位精霊の強さには下限はあるが上限は存在しない。俺的には、上位精霊の中でもキマイラは上の存在であると思いたい。


 キマイラに言われた通りにゴブリンキングの杖を前に置くと、キマイラがそれを口に咥える。

 キマイラが杖に魔力を流すと、杖かガダガダと震え出す。そして、杖の表面に細い筋が入り、それが無数の亀裂へと成長して行く。

 このままでは壊れてしまうと思ったが、キマイラに手を出すことも出来ずに、ただ見守るしかない。

 さらに亀裂がはっきりと浮かび上がり、限界に達するとパキンッという音と共に弾ける。


「ああっ・・・」


「何を心配しておる。良く見てみろ!」


 そこには、黒かった杖の下から真っ白な杖が現れ、そこには複雑な紋様のようなものが刻み込まれている。


「使ってみろ。これが本当の杖の姿だ!」


 そう言われると、キマイラから杖を受け取り魔力を流してみる。しかし魔力が込められるだけで何の変化も起きない。


「前の杖とは違うぞ。火・水・地・風のどの魔法を発現させたいかイメージしろ」


 今までは、森の中という事もあって攻撃魔法は、ほとんど風魔法しか使ってこなかったので、一番使い慣れた風魔法をイメージする。


「ウィンドカッター」


 簡単に唱えた下級魔法だったが、人ほどの大きさのブーメランが出たかと思ったら、地面に大きな亀裂をつくり地中深くへと消えてしまう。


「どうだ、精霊樹から造り出した杖の威力は気に入ったかな?」


「この森の侵入者に、こんな杖を与えてしまって大丈夫なのか?」


「心配するな、精霊樹に認められなければ、魔法は制御出来ずに逆流する事もある。ちゃんと魔法が行使出来たなら、それは問題ないという事だな」


 結果としては、精霊樹に認めてもらえた事になるが、最悪はの場合はあのウィンドカッターが自身に襲いかかってきた事になる。


「それはな、精霊樹から造られた四属性を操れる杖で、込めた魔力を増幅してくれる。そして、この森を護る為の存在じゃったが、誰かが持ち出してしまった」


「これは返さなきゃならないのか?」


「その杖は所有者をお主と決めたのだろう。今はこの森に儂がおるから、問題はあるまい」


「ところで小僧、コダマが騒いでおった精霊使いはお主の事か?」


「精霊達を騒がせたつもりはないけど、精霊使いと云われれば俺しか居ないと思う」


「ヒト族の割には、不思議な魔力をしておるし、いまいち雰囲気が掴めん」


「それは迷い人だからじゃないか?精霊化している影響だと思うし、何故こうなったかを知りたくて旅をしているけど、理由は分からない」


「儂に魔物の翼とやらを見せてみろ」


 やはり、この森では魔物であるという事は問題になるのだろうか?しかしキマイラは警戒している感じではなく、好奇心が伝わってくる。


「出したら、何かされる事はないよな?」


「見えなかったが、さっき出しておろう」


 そう言われれば、今さら隠す事も出来ないので翼を出すが、あくまでも2対4枚の翼として出現させる。


「ほう、やはり精霊と魔物が混在しているのか。その黒翼も嫌な感じはせんの」


「精霊と魔物は混在しないのか?」


「精霊と魔物が混在する事はあり得ん。バイコーンを見たのだろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る