第122話.上位精霊

 クオンが何かを探知する。


“危ない、速い”


 地面や魔樹を蹴りながら、今までにない速さで何かが向かってくる。四つ足の存在なら精霊か魔物になるが、ここが魔力だまりの森ならば、魔物ではないとは言いきれない。魔樹を蹴りながら変則的に進路を変えて進んでくる。


 クオンの探知よりも離れた距離から俺達を見つけ、暗い森の中でも魔樹を的確に足場にして進み、あっという間に距離を詰めてくる。


 見つかった時点で逃げきることは難しい。


「精霊か魔物か?敵か味方か?」


『敵じゃなくても、味方はないでしょうね♪』


「確かに間違ってはないけど、楽しそうなのはどうかな?」


「あら、いつも通りよ♪ねえ、ガーラ!」


 当たり前でしょいわんばかりの澄ました顔のガーラ。


「さっき、仲間になったばかりだろ」


 まあ、クオンが警戒している意味が分かっていて、平常心でいられるなら安心してイイのかもしれない。


 敵なら攻撃出来るんだけどな。敵じゃないなら、どうする?

 攻撃出来ないなら、守るのか?相手が攻撃してきたら、ただ待って受けるしかないのか?色々な状況を想定して、それぞれの対応策を考え、そして今すべき事は何か?


「分かってるって。時間がないんだろ!」


 ウィプス達が影から出てきて、俺の前に出て明滅する。


 四つ足の獣は、何故俺達が居る事が分かったのか?クオンのような聴覚なのか、それとも魔力を感じ取ったのか?


「ブロッサ、ポイズンミスト。シナジーは霧を!それと、魔力濃度を上げてくれ」


 暗闇の中に濃い霧が立ち込め、辺り一帯が飲み込まれ、俺の周り残留魔力濃度を限界まで高める。

 魔力で俺達を探知して見付けだしたのなら、この中に居る俺達をピンポイントで見つけ出す事は出来ないだろう。


 そして、四つ足の獣はポイズンミストを十分な距離をとって避ける。

 そして霧の前に、四つ足の獣が現れる。霧のシナジーを通して見える姿は、頭がライオンで身体が山羊、尻尾が蛇のキマイラ。


「俺の知識が正しいなら、キマイラなのか?目は赤くないか精霊?」


『付け加えるなら、キマイラは上位精霊ね』


「ガーラ、知ってたか?」


「ここは精霊達が近寄らない森」


“キマイラの縄張りだから”が抜けているけど、確かに間違いではない。

 そしてキマイラは様子を探るように、霧の外周をウロウロし始める。


「聴覚による探知じゃないな」


『狙い通りなんでしょ』


「まだ半分だよ。ダーク、頼む!」


 ダークの操るマジックソードが、地中に埋めた光の玉を掘り起こして、キマイラの右横へと飛ばす。その瞬間、キマイラの口からはファイヤーボールが放たれ、直撃した光の玉は跡形もなく消え去ってしまう。

 普通のファイヤーボールと比べると桁外れに威力が強く、霧には大きな穴が開いてしまう。そのまま魔樹へと直撃し激しく燃え上がったように見えたが、魔樹は何も変わらずに一枚の葉が落ちる事もなく、そこに立っている。


 しかし、今の攻撃は光の玉を見てからの攻撃で間違いない。合図を送ると、もう一度ダークが地中から光の玉を掘り起こしてキマイラの右横へと飛ばす。

 さらに、今度はシナジーが霧で俺の分身を作り出し、キマイラの右側面を捉えようと操作する。


 再びキマイラが光の玉にファイヤーボールを放ち、今度は霧の中から動く人影を見つけて体の向きを変える。


 その瞬間に、一斉にリッター達を召喚し、目映い光がキマイラを襲う。暗い森の中に慣れたキマイラの目を眩ませるには十分過ぎる光で、少しだけ動きが止まる。


「ウィンドトルネード」


 ダークのマジックソードやウィプス達のサンダーボルトも、キマイラへをウィンドトルネードから逃がすまいと動きを封じるように攻撃してくれる。


 最大のチャンスに、俺の出来る攻撃の全てを組み合わせて、キマイラへと放つ一撃。2対4枚の翼が風を送りウィンドトルネードを加速させ、さらに黒翼から剣羽根を放つ。ウィンドトルネードは剣羽根だけではなく、ブロッサのポイズンブレスやフォリーのシェイドを巻き込み、複数の魔法が組合わさる。


 キマイラに直撃したウィンドトルネードは、さらにキマイラの周りので複数の嵐をつく出す。

 地面から巻き上げた土埃で見えなくなっても、ウィンドトルネードを放ち続ける。


 舞い上がった土埃が収まり、少しずつキマイラの姿が見えてくる。そこには、ライオンの鬣すら乱れていないキマイラの姿があった。

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