第118話.ガーラの背中

 俺とバイコーンとの距離は5m程で、にらみ合いが続く。間には2枚のマジックシールドがあるが、距離として近すぎる。 接近戦も出来ないわけではないが、ライに教えられた程度でしかない。

 そして、バイコーンの視線がガーラへと移り、まじまじと見つめる。それは、俺の時よりも長く、そして殺気を放っている。


「違う、お前は後回しだ」


 そう言うと、バイコーンは向きを変えて走り出す。俺達の前から逃げ出した時のユニコーンよりも、明かに走るのは速い。速さだけでなく、一歩で進む距離も長い。


「後回しって事は、敵認定されたのか?」


『お前って言ってたから、ガーラの事だけを言ってるのかしら?』


「あれは怨みの感情だな。俺様の怒りに比べたら、まだまだ可愛いもんだがな」


 そう言われた、当の本人は何食わない顔をしている。俺達の視線が集まるのを感じて、さらに言い放つ。


「追いかける。放っておくと、この森が危険。これだけで終わらない!そして、知識の探求!」


 間違いなくこの森でも異変が起こっているのは間違いなく、バイコーンはその異変を知る手懸りになる。ガーラも初めて知った、精霊が魔物化してしまうという事実。


「最後の知識の探求・・・って、好奇心じゃないよな?」


『沢山の知識を集めれば、問題解決に繋がる糸口が見つかるって事ね。ユニコーンがバイコーンになったのは、ガーラが知らない知識だけど、それがどこかでは結び付くはずよ!』


 ムーアが言葉の少ないガーラをフォローするが、あまりにも早く入ったフォローが逆に怪しく感じさせる。

 あまり人前に出たり目立つことを嫌うくせに、トラブルには誰よりも好奇心を示すムーア。恐らく、ムーアもガーラも似た性格で、すでに話が付いていたような気さえもする。


「だけど今から追いかけても、だいぶ距離が離されてるぞ。クオンが探知出来る距離からは外れそうだし、そうなったら俺の嗅覚スキルで追いかけるしかないぞ」


『時間がないわよ。ソースイ、ホーソン、早くガーラに乗って!』


「えっ、乗っても大丈夫なのか?嫌だったりするじゃないか?」


「早く乗る。しっかり掴まらないと振り落とす。落ちたら置いて行く」


『ほら、ガーラも言ってるでしょ。乗った後は、遠慮しないからね!』


 どうやってガーラに乗るか、そして誰が前で誰が後ろになるかで、微妙な空気になっている。


「まごまごしない。早くして」


 ガーラに叱責されて、慌ててガーラに乗るがソースイが前で、ホーソンが後ろに座る。後は落ちないように頑張ってくれとしか言えない。

 あのスピードで移動するバイコーンを追いかけれるのは俺とチェンだけで、ソースイやホーソンでは不可能な速さになる。抱えて飛べば追い付く事は出来ないし、2人だけを森に残すとどうなるかは分からない。

 それを分かってのムーアとガーラの行動で、今後の事を考えると移動速度が上がるのは嬉しい。

 アシスに来たばかりの頃は、ヒケンの森の中でソースイに追い付くのがやっとで、今となれば懐かしい。


『カショウ、何してるの。あなたが先頭でしょ!』


 ムーアに急かされて、慌ててバイコーンの臭いを辿る。2対4枚の翼になった事で、飛行速度だけでなくホバリングや急旋回も出来るようになった。それはトンボ族の蟲人であるチェン先生のお陰でもある。

 そして真ん中にガーラ、最後尾にチェンが並ぶ形でバイコーンを追いかけ始める。


「皆大丈夫だよ。まだまだ余裕があるみたい。1番余裕が無いのは、ソースイとホーソンの顔だね♪」


 ナレッジが、後ろの状況を教えてくれる。臭いを辿りながらではあるが、かなりの速度で飛んでいる。ソースイとホーソンを乗せたガーラは余裕の表情で、チェンは後方を警戒する仕草を見せて飛んでいる。


「臭いを辿りながらだから、これ以上は早く飛べないぞ」


「そうだね、これ以上速くなると2人が落ちちゃうね。まあ心配しなくても、痛みを感じる前に即死だろうけど♪」


 少しだけ強がってはみたけど、実際は限界に近い速度で飛んでいる。リズとリタの純白の翼もハーピーロードの黒翼も個々の性能が高い。その2つを同時に操るのはそれなりにスキルが必要になり、また精霊が操る翼と俺が操る翼を連携させるのは難しく、まだ完全な力を発揮されていない。


 それでもバイコーンとの距離は縮まり、クオンも気配を確実に捉え始める。

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