第112話.精霊達の事情
エルフ族が住む迷いの森に行くためには、岩峰にあるオヤの街道で東に向かい、ソウ川を渡る必要がある。
この川は最初の祠の近くで見た川と同じらしい。ゴセキ山脈から流れ落ちる川は、東へと向かうが徐々に進路を変え、岩峰を避けるように南へと向かう。祠の近くでは10mくらいだった川幅は、今は何十倍にもなり水量も多い。
アシスでも橋を架ける技術はあるのだろうが橋は架かっておらず、この川が魔物の侵入を食い止める堀のような役割を果たしている。
川を渡る為には船に乗る必要があり、確かにどこに行くにもお金は必要みたいだなと改めて感じる。
「今は飛んで渡れるけど、泳いで渡るかな?
『迂闊に川に入らない方がいいわよ。帰ってこれなくなるから』
「流れは緩やかそうだけど、この川に入ったらマズイのか?」
『そうね、大きな川になればなるほど力の強い精霊や魔物が居るのよ。川でも海でも山でも一緒で、同じ属性の物同士が多く集まれば集まる程に精霊の力は強くなるの。そして力を持った精霊は、気難しくもなるわ』
「そう言えば、中位精霊はお互いに干渉する事を避けたがるって言ってたな。だけどこの川には、ムーアやブロッサよりも上位クラスの精霊が居るいるとは思えないけどな?」
『アシスにある水と、酒や毒はどっちが多いかは聞くまでもないでしょ。酒や毒の量なんてあってないような存在よ。いくら個々の力やスキルの特異性がある中位精霊ではあっても、成長し難い存在なのよ』
「ムーアよりも、この川に居る精霊の方が力があるっ事?」
『常に大量の水がある環境の精霊は、少しずつでも力を溜め込むのよ。今の私やブロッサは、あなたからの魔力を糧にしているけど、それまでは違うでしょ』
「何となく分かったけど、水の精霊にも限界はあるんじゃないのか?」
『どこまでが限界かは分からないけど、精霊の中でも最上位になるのは火・水・地・風の精霊達ね』
「この川には、そんな精霊が居るって事なのか?」
『昔と同じなら、そこまでの精霊はいないと思うわ。ナーイアスやケルピーのような中位の精霊達かしら。だけど、少しずつでも魔力を蓄えて成長しているだろうし、性格の気難しさは上位クラスで縄張り意識も高いわね』
「下手に泳いで、音を立てながら縄張りに入れば精霊を怒らせる事になるのか」
『だから、船は精霊達の縄張りの境目を通ってるのよ。真っ直ぐの最短距離じゃなく、少しカーブして通ってるわ』
「精霊も協力してくれなければ、無関心ってわけじゃないんだな」
『そうよ、どちらかと言えばヒケンの森の精霊達は、争いを好まない温厚な精霊が多いわ。縄張り争いよりも数少ないゴブリンの驚異を選んで逃げてきた精霊が多いのだから!』
これから向かうと迷いの森は、エルフ族が張った不可侵の結界によって護られている。精霊達の為に張った結界ではないかもしれないが、精霊達に影響を与えず護ってくれる結界の周りでは、必然的に縄張り争いが起こる。
また、エルフ族は精霊と相性が良いのではなく、実際は利害関係が一致しているだけなのかもしれない。
「精霊達にとっては、迷いの森は楽園のように見えたけど、実際は違うんだな。命に終わりがないからこそ、安全な場所を長く確保したいと思うわけだ」
『終わりがあるという事は幸せな事よ。ハーピーロードが望んだことも、それが理由かもしれないわね』
「俺って、どれだけ生きれるんだろうな?」
『ヒト族の寿命は短いから、精霊化が進めば長寿になるし、元に戻るに連れて短命になるのは間違いないわよ』
「それも、何だか複雑な気分だな」
『死なない為に頑張って、終わりのある身体を求める。カショウらしい選択だとは思うわね』
「俺らしく在る為に、川を渡ろうか!だけど、少しだけ上流に行ってからにしよう」
船に乗らない俺達は川を飛んで渡るが、ソースイとホーソンは飛ぶことが出来ない。当然の事で俺がソースイを抱え、チェンがホーソンを抱えて飛ぶ姿はあまりにもカッコ悪い。
そして何もない時は、ソースイ頭の上にはベルが乗っている。特に最近は、戦いの連続だっただけに久しぶり感触を楽しんでいるのだろう。
「ベル、成長したらソースイを抱えて飛べるようになるか?リズやリタのような翼になるなら大丈夫だろ」
『ダメよっ、そんな事したらお仕事が出来なくなるわっ!それに後300年待ってくれるなら考えてあげるわっ』
「俺が生きてればか・・・」
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