第108話.呪われの迷い人

 ハーピーロードとクイーンが倒されると、他の岩峰に居たはずのハーピー達も姿を消してしまう。

 また岩峰の頂上にあった結界は、何者かによって全てが破壊され、ワームがハーピー達に襲いかかったようだ。ワームがハーピーを飲み込んだにしても、全てのハーピーが岩峰の頂上に居たわけではない。クオンの探知でも、棲みかの洞窟の中から気配は感じられないので、どこかに逃げたのだとは思う。この近辺なら、エルフ族の住む迷いの森辺りだろう。


 そして、残された結界は、ハーピークイーンの岩峰の結界の1つだけになる。そこからヒケンの森やオオザの崖、タカオの廃鉱との繋がりが解明出来れば、やはりタカオの街のドワーフが関係している事になる。

 時間がかかるかもしれないが、ホーソンがその証拠を見つけ出すと思う。それに金属の精霊ミュラーなら、精霊達を縛った鎖や結界の鎖の秘密を解き明かす手助けになるはず。


 しかし、タカオのドワーフに繋がる手掛かりは簡単に見つかる。ハーピークイーンのいた岩峰の洞窟の中は整備され、明らかに人の手が加わった部屋となっている。

 廃鉱のように所々で光る玉が照明として使われているが、1つの部屋の中で光る玉が大量に見つかる。光る玉はマッツと深い繋がりのある商会の紋章が入った箱に入れられ、これだけを見れば間違いなく関係している事になる。


「こんなに簡単に証拠が見つかると思うか?」


『繋がっているのは間違いなくても、これを証拠とするなら簡単過ぎるわね。どう、ホーソン?』


「証拠としては弱いかもしれませんが、蟲人族との仲違いをさせるには十分かもしれません」


「作戦が失敗しても、種族間が仲違いさせれば大丈夫ってところか」


『そうね、この箱は無かった事にするしかないわね』


「まあ、それが妥当なとこだな」


 後で知ることになるが、ハーピー達の襲撃の後で領主のマッツと一部の幹部が忽然と消えてしまう。そして、保護されたドワーフの中でも腕利きの職人も一緒に行方不明となる。

 また、マッツが居なくなる事により特殊な金属が入手出来なくなり、タカオの街のドワーフの武器や防具の特殊性は薄れ、少しずつ衰退して行く。



 衰退して行く者があれば、俺はその逆になる。ハーピーロードやクイーンを倒した事によって大きく実力を示した事になる。


 しかしムーアやチェンの悪のりで、俺の間違った解釈が急速に広まる。


“呪われの迷い人カショウ”


 精霊化は一種の呪いの状態になる。そのまま融合が進むのか、それとも別々となり戻ることが出来るかは分からない。


 そして、俺がこの世界でも避けられる存在である事を初めて実感する。


 精霊化が進んだ場合は、精霊として存在はするが、意識はなくなりヒトとしての存在は消えてしまう。

 木の精霊が宿ったのら、滅びるまで木のままで過ごす。迷いの森にさ迷う者は、精霊に身体は乗っ取られてしまうと云われているのは精霊化する事であるらしい。

 これが木の精霊ではなく火の精霊なら、どうなってしまうだろうか?精霊化が進み、俺の存在が無くなってしまうと、急に精霊化が進み身体が燃えてしまう。

 そういう存在が街中にいると、それは危険でしかない。そして、俺の場合は、魔力をため込み急に爆発してしまう不安因子でしかない。


 そして、そこに更に魔物化という要素が加わる。ある日突然魔物化し暴れてしまうのではないかという危険性と恐怖は消すことが出来ない。


 チェンが蟲人族に対して、ハーピー達を倒した迷い人は、魔物化の呪いにかかってしまったと大々的に触れ回る。俺が遠くから見せた、白い翼は精霊化した証で、黒い翼は魔物化した証。

 ヒト族と精霊と魔物が混ざった不安定な状態は、悪意のある感情が伝わる事で簡単にバランスを崩してしまう。


 呪われた迷い人には、絶対に近寄ってはならない!


 そのお陰なのか、そのせいなのか、遠巻きに岩峰を監視する蟲人族以外は姿を見せない。


 ソースイは思う存分にワームと戦い、ホーソンは結界の調査を行う。


 そして、俺はハーピークイーンから得た魔力吸収スキルの特訓になる。

 魔力で吸収スキルは危険で、無意識でも周りの魔力を吸い取ってしまう。


「ファイヤーボール」


『ストーンバレット』


「ウォーターボール」


「ポイズンボム」


 クオン、ムーア、チェン、ブロッサが放つ魔法が、俺に襲いかかる。勿論、ウィプス達は連携魔法を放つ隙を狙っている。


「もっと少しずつ使いこなすんじゃないのか?」


『実戦形式の方が早いわよ。私のストーンバレットだけを吸収しないようにしてね』


「うん、カショウ頑張るの!」

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