第107話.託されたもの

 一度前に進むしかないと決めたら、俺も精霊達も迷う事はなく、ムーアの突っ込みが入る。


『今度は、何を吸収したのかしら?貴方の背中の黒い翼はハーピーロードのものよね』


「そう言われてもな。俺がやったことなのか?」


『ちゃんと説明しないと、リズとリタが怒るわよ!』


 俺の意思ではあるが、純白の翼はリズとリタの2人が制御している。飛ぶ事に関しては、2人にお任せになるが、黒い翼によって関係性が変わる。


「ハーピーロードの仕業で、俺は関係していない」


『結果責任じゃないの?』


 もしかしてと思い、もう1人の責任者であるハーピーロードに出てこいと念じてみるが、やはり存在は消滅している。

 仕方なく黒い翼をイメージしてみると、一瞬だけ背中に翼が現れる。どうやら黒い翼は、召喚魔法とは違い、俺の管轄でもある物質化魔法に近いようだ。


 今度は、リズとリタの純白の翼を出した後に、黒い翼を出してみる。2対4枚の翼で上には純白の翼で、下には一回り小さい黒翼がくる。上にくる翼の方が上位になるのだろうか、リズとリタはそれで満足であるみたいだ。


『どうしたの?』


「翼が動かないんだ?ハーピーロードの存在も感じられないし!」


 凝った身体をほぐすように、ゆらゆらと動く白い翼に対して、固まったままで全く動かない黒い翼。


『それは、自分で動かすんじゃないの?』


「えっ?」


『ハーピーロードから譲られた力は、貴方じゃなければ使えないわよ。残念だけど、そこは精霊と魔物の違いがあるし、精霊達に魔物の翼は使う事は無理よ』


 やっと、物質化魔法に探知魔法を行使しながら、他属性魔法を行使する事に慣れてきたのに。また、やる事が増えるのか・・・。



 そして、まだ吸収したものはある。間違いなくハーピークイーンから“古の滅びた記憶”を吸収しているはず。今のところ、何が変わったかは感じられない。


「嗅覚、視覚ときてるから、次は聴覚、味覚、触覚のどれかだろうな」


『それなら、味覚じゃないかしら?』


「食べる事は出来るけど、食べない方がイイ身体だし、味覚だったら少し複雑だな」


 最初は聴覚から試してみる。岩峰の周りに吹く風の音に耳を澄ますし、クオンのように感じれるのかもしれないと期待もしたが、特に変化はなさそう。まあ、クオンが居てくれれば、聴覚があっても特に変わらないかもしれない。


 次は、触覚を試してみる。足元に落ちている、ハーピー達の魔石を拾い上げてみる。触った感触は特に変わらないが、前よりは魔力を感じ取れるような気がする。

 それは俺が成長しただけなのか、それとも変化が起こったからなのかは分からない。しばらく魔石を持ったままで様子をみるが、特に変化は起こらないから違うのだろう。


 最後に残るのは味覚を試してみる。恐る恐る手に持っている魔石を口に近付けてみる。噛んでみようか、それとも舐めてみようかと悩みながら近付けて行くと、呼吸に合わせて何かが口の中に入ってきて、慌てて魔石を離す。そして、手に持った魔石の色は少しだけ薄くなり魔力が抜けている。


「もしかして、味覚は魔力吸収なのか?」


『そうみたいね。それは貴方の求めていたスキルでもあるんでしょ』


 異世界転移と同時に始まった、原因不明の魔力吸収という暴走。それを制御する事が出来る可能性があるのは、無属性の上位スキルである魔力吸収。


「いきなり魔力吸収スキルが使えますってなっても、使いこなせなかったら大変な事になるぞ」


『しばらくは、岩峰の頂上で特訓するしかないわね』


「ハーピーの問題も片付いたばかりだぞ。普通は、次の展開までゆっくるするんじゃないか?強敵が現れてからの特訓だと思うけどな」


『何、どこかの物語の世界のお話してるの!強敵が現れてから特訓しても手遅れになるだけで、そんなご都合主義な展開なんてあるわけないでしょ』


「俺って、まだ怪我が治ってないんだぞ!」


「今、治シテル。激シク動カナケレバ大丈夫」


「細かい傷は、あっしが治しやすよ。それに、翅と翼の違いはありやすが、4枚の翼の使い方は教えれますぜ!」


「カショウ様、結界の調査をする約束ですが、お忘れですか?残された結界は多いですよ!」


「結界よりも先に、ワームを放置したままは危険です。ここは私が、責任もって討伐してご覧に入れます!」


『しばらく、ここに居ることは決まりみたいね♪』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る