第82話.ホーソンの欲求

 ローブの中から光の玉を出して、ホーソンに見せる。あくまで右手の上に載せて持っているだけだが、ホーソンの手は光の玉に伸びてくる。

 ドワーフ特有かもしれないが、未知の技術に対しての好奇心なのだろう。ホーソンの手から逃げるように、わざと右手を引く。


「見せただけで、触らせるとは一言も言ってないぞ」


「そんな、それはあんまりじゃないですか?」


 瓦礫に埋もれている時以上に、辛そうな顔と声を出す。


「これ以上は、俺達の事にも関係するからな。全てのドワーフが関係しているとは思わないが、簡単には信用出来ない」


「どうすれば信用してもらえるんですか?カショウさんは、アシスに来たばかりじゃないですか。ソースイさんは信用出来て、私はダメなんですか?」


 そこにムーアが割って入る。


『あらソースイはね、全てをカショウに捧げたのよ。あなたに全てを差し出す覚悟がある?一方的に私たちの情報だけを知ろうというなら、それなりの覚悟が必要よ!』


「それが出来れば、あなたに付いていっても大丈夫なんですね?」


『「えっ?」』


「漆黒の盾に、その光る玉。まだ知らない知識や技術が詰まっています!それに触れる事が出来るなら、何でもやります」


「俺と契約すると、不眠で絶食の身体になるぞ」


「寝ないで大丈夫なんですか?」


「寝ないで働く事になるんだぞ!」


「未知の知識や技術の前に、寝る時間なんて勿体ないだけです」


「扱いはブラックだぞ!」


「色で表すなんて、知的な表現ですね」


『カショウ、無駄みたいね。諦めたら方がイイかしら』


 冗談っぽく言っているが、ムーアは真剣な目をしている。これは悪い話ではないと!


 魔法や魔力については、ムーアや精霊達は詳しい。もちろん魔力を元に身体を実体化している事もあるが、ムーアやブロッサはアシスが誕生した時からの精霊。黎明期や過渡期の世界を経験し、その経験によって得られた知識に近い。


 今が成長期や全盛期のどこに当てはまるかは分からないが、ゆっくりではあるが成長し新しい技術は誕生している。

 しかし表に出る事の少なかった精霊達の、未知の知識や技術は少なくない。


「もう一度確認するけど、安全である保証は無いし、求めている事以上に危険は多いぞ。この契約をすれば後戻りは出来ない」


『こんな技術バカには、はっきり言わないとダメよ。裏切ったら命は無い。分かったわね!』


 この一言で全てが決まってしまう。ムーアの迫力に圧倒され、コクコクと頷くしかないホーソン。契約の精霊を前に、明らかな意思表示。そして俺も何も言わなければ、それでだけで十分。


『無事、契約成立よ♪』


「少し強引ではあったけどな」


『あら、仕事が早いって言って欲しいわ。契約すれば少しは体力も強化されるし回復もするわよ』


「そういう事にしておくよ。それでも、今日は動かない方がイイだろうな」


「それじゃあ、今日はゆっくり光の玉を見れるんですね♪」


 ホーソンの手が伸び、顔のワクワクが止まらない。さっきまで死にかけていた事は、すっかり忘れ去られている気がする。

 諦めて光の玉をホーソンに渡すと、手に取るだけでなく、軽く叩いて音を聞いたり、魔力を流したりと鑑定を始める。


「ホーソン、大丈夫なのか?」


「何がですか?」


「魔力を流しているように見えたけど?」


「何か問題でもありましたか?もしかして、爆発してしまうとか?」


「そうじゃなくて、さっきまで死にかけてたんだろ。魔力なんか流して、体力が消耗するんじゃないか?」


「契約したら、身体が急に軽くなったんですよ。前よりも体調は良いくらいです!」


 そして、再び光る玉に魔力を流し始める。特に何の変化も起こらない。


「不思議な玉ですね、これは!マジックアイテムではないですよ」


「どこが不思議なんだ?」


「マジックアイテムは、魔力を流して初めて魔法が発動する。だから魔石などの魔法が発動する場所と、魔力を溜める場所があるんです。だけど、この光の玉には魔力が感じられない。発動した魔法自体が、閉じ込められているんですよ」


 確かに言われてみると納得する。オニの短剣にしても、ゴブリンキングの杖にしても、込める魔力で魔法の威力は変わる。

 しかし、この玉は常に同じ光を放ち続ける。どんなに魔力を流しても、光が強くなる事も瞬く事もしない。


「どれだけの魔法が込められているか想像も出来ません。これは、かなり危険かもしれません」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る