第78話.迎撃準備

 タカオの街の壁が、はっきりと見えてくる。街の西門の上空に蠢いているは、間違いなくハーピーの群れ。

 翔べるハーピーにとっては、10mの壁は意味がない。そしてハーピーは、どこから集めたのか分からないが、両足に岩を掴んでいる。


 もちろん、目的は殺戮と破壊。岩を落としてから自身も急降下し、生きた者を襲う。鳥頭と言っていたが、統率された動きを見せている。石や物を落とすタイミングや急降下するタイミングが揃っているし、自滅するような事はない。

 そして急降下して生き物を襲い、掴んではまた空へ舞い上がる。まだ遠くにしか見えないが、その光景から異様さは伝わる。


「本当にあれが、鳥頭のハーピーなのか?」


『上位種の影響かしら?だけど上位種でも夜は目が見えなくなるから、もう少し耐えれば巣に帰るはずよ』



 タカオの街も無抵抗ではない。防衛隊が組織され、ラップ達がコボルトに襲われているところに駆け付けたのは、副隊長のドロー。

 このタカオの街自体が安全な所にある訳ではないので、訓練はされているはず。


 ここに住むドワーフにしても、ほとんどが武器を鍛える為、その良し悪しを判断出来る程度に武器は扱える。

 それは集まってきた住人達も同じで、商人であれば護衛を数人は雇っている。多少の魔物の群れでも、全く問題ない。


 それでも、上空に連れていかれる人影が見え、上空から攻撃出来る優位性は大きい。


「ドワーフ達はあまり信用は出来ないし手の内を見せたくはないが、現状を見ると仕方がないな」


『仕方がないわね。門の近くなら、獣人やオニ族が多かったわ』


 射程距離に入った所で、ウィスプ達3人の連携技のサンダービームを放つ。


 サンダービームは、ハーピーの一番集まっている所へと目掛けて放たれる。そしてハーピーの群れの中へと吸い込まれ、パラパラと落下するハーピーが見える。


 少しでも倒せて、こちらに気付いてくれれば良い。それに、こちらも空を飛ぶ魔物との戦いは初めてになる。

 街の中のまとまった数を相手にするよりは、まず少ない数のハーピーを相手にしたい思いもあるし、声には出さないが、“こっちに気付け”と思う。


 そしてハーピーが思惑通りに動く・・・。

 黒い塊から欠け落ちたかのように、1つの塊が動き出し、こっちに向かってくる。


「多すぎるぞ。100体はいるんじゃないか?」


『それだけの驚異と認定されたってじゃないの』


 こっちに向かってくるハーピー達は、黒い塊だったが、次第に横と縦に広がり、俺達を包み込む網のようにと隊列を変える。

 岩は持っておらず、遠距離攻撃が出来る相手にスピードを落とすような事もしない。


 地上近くを飛んでくるハーピーは、ソースイとハンソ。


 ウィスプ達は上空での空中戦。ドッグファイトは初めて見るが、ハーピーと比べてると1段階と2段階も速さは上なので心配はしていない。


 そしてムーア、ブロッサは魔法で援護する。


 ブロッサには何も言ってはいないが、すでにポイズンミストで壁や罠を張っている。こっちを振り返ってサムズアップしてくるから、作業完了したのだろう。


 俺の場合は、ブレスレットの中や影からの援護もある。


 展開したマジックソード2本はダークが操る。今の俺だと10mくらい離れても、マジックソードやシールドを維持出来る。その範囲なら、ダークは地上でも上空でも自由に動け、遊撃手のように立ち振舞える。


 何も言わずに現れた純白の翼。俺自身も飛ぶ事が出来るし、いざという時は俺を守る盾になる。ゴブリンキングの時よりも羽ばたきは力強くなり、翼も一回り大きくなった。その翼を見せ付けるかのように、1度だけ大きく広がる。


 俺は、ゴブリンキングの杖を影から取り出す。マトリから杖を受け取ると魔力を流す。

 ハーピー達を倒す必要はなく、翼を傷つけて飛べなくすれば良い。そしてウィンドトルネードは、当たらなくても周囲を巻き込んで影響を与える。ハーピー達相手には最適の魔法。もちろん、マトリが魔力操作を補助してくれる。


 そして反対の左手は、マジックシールドの操作。純粋に盾というより、バーレッジがいつでも発動できるように準備している。

 仮に防御を抜けて接近してくるハーピーがいても、フォリーのシェイドが迎え撃つ。光の影響を受けるが、至近距離であるならば効果は十分に期待出来る。


 最初の頃は、1度で何個の魔力操作なんて出来るか! と思ったが、やれば出来るもんだなと思う。


「さて、始めるか!」

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