フタガの石峰のハーピー

第77話.ハーピーの急襲

 タカオの街へと戻って、少し休息が必要だと感じる。体は休む必要はないのかもしれないが、精神的な疲労は蓄積する。悪い状態の思考は、ネガティブな方向にしか向かない。

 後は、ミュラーとリッターの回復も待つ必要がなかったる。少しでも出来る事が増えれば、可能性も広がる。


 そしてムーアの持っていた錫の盃。単純に考えれば、ミュラーのスキルは金属を具現化する事だろう。

 オルキャンがミュラーをコボルトのポップアップの生け贄にしたのだから、現状のスキルには魅力を感じなかったのは間違いない。ムーアも騒いでこないのなら、今は限定された能力だろう。


 しかし過去と今は異なる。俺と契約した事により、ミュラーの能力は底上げされている。完全回復し成長・進化を遂げれば、ミスリルなどのファンタジー金属を造れるかもしれない。そうすれば、ドワーフ達も羨むレア金属を産み出す精霊になるはず。


 そして今度こそ、金の力を手に入れる!大抵の事は解決することが出来る力を手に入れば、アシスでの未来は一気に拓ける。


 何事も願わなければ始まらない。考えなければ進まない。そして、成功にはイメージが重要! 悪い笑みを作ってみる。ぎこちないと感じて、何回か繰り返してみる。


『その顔、似合わないわよ』


 言葉じゃなくムーアの笑いを堪えた顔が、俺の暴走をあっさりと止める。強く言われればムキになるが、笑われると躊躇ってしまう。


 そんな事が出来るのも、コボルト達が居ないから。廃鉱が崩落した事で、山の外に逃げ出したコボルト達が少なからずいると思ったが、その心配は無用だった。

 コボルト達は、山の麓の森で留まり様子を見ている。そして崩落がおさまると、少しずつ山へと引き返して行く。縄張り意識が強いのか、それとも守ろうとする何かがあるのかは分からない。



「あれは何だ?」


 遠くにタカオの街が見えてくる。しかし少し様子がおかしい。タカオの街の上に黒いモヤが見える。


 次第に近付いてくると、黒いモヤが蠢いている。鳥にしては大きいし、群れの数にしては異常な数。


『ハーピーしか考えれないわね』


「ハーピーは、どんな魔物なんだ?」


 タカオの街の近くに現れる魔物は、北の廃鉱のコボルトと、南の石峰のハーピー。そして、空を飛ぶ魔物はハーピーしか居ない。


 ハーピーは、胸から上はヒト型で、胸から下にいくにかけて鳥型になる。体は薄いピンク色で腕はなく代わりに翼がある。翼の中には剣のように鋭い剣羽根が混ざり、翼の途中には鍵爪がある。趾の4本の爪は長く鋭いだけでなく掴む力も強い。。

 集団で獲物を狙うのはコボルトと一緒だが、性格は気性が荒く狂暴で粗野。

 攻撃は趾の鋭い爪か翼の中にある鍵爪で切り裂く。また鋭利な剣羽根を飛ばしてくるが、攻撃的な性格での為、趾の爪で直接攻撃してくる事が多い。

 しかし獲物が弱ってくると、空高くまで持ち上げて落下させたり、喉元に食らいつく。恐怖で泣き叫ぶ声や顔で愉悦に浸り、薄いピンク色の体は返り血を浴びて真っ赤に染まる。


『凶悪ではあるけど、残念な魔物ね』


「この話のどこが残念なんだ?」


『簡潔に言えば、鳥目・鳥頭ね!夜になると極端に視力が落ちて、ほぼ見えなくなるわ。そして、頭の悪さは致命的。集団で獲物を狙うけど、連携は出来ない。すぐに奪い合いなどの内輪揉めを起こしてしまう』


「頭はヒト型なんだろ?」


『だから、残念な魔物といわれるの』


「ベルが抗議してきそうな魔物だよな・・・」


『精霊の姿は魔力体だから鳥の特徴は現れやすいけど、全てがそうじゃないわ』


「もう、夜目の効く鳥もいるのよっ」


 そして抗議してくるベル。そっちにかと突っ込みそうになるが、今は必死で堪える。


『ハーピーの頭では行動範囲はもっと狭いわ。片道2時間くらいを超えると、巣の場所が分からなくなる。だから南の岩峰から、タカオの街まで来る事が異常な事ね』


「ハーピーの上位種が居るとどうなる?」


『キャプテンだけじゃ、あの数を率いるのは難しいしでしょ。ジェネラル以上でもどうかしら?』


「ロードやクイーンになるのか?」


『上位クラスは、巣穴から出た話を聞いたことはないわね』


「結局、タカオの街に行って確認するしかないのか」


『タイミングが良すぎるから、あらかじめ仕組まれていた罠かもしれないわね。警戒して臨めるなら、まだ悪くはないわよ』


「連動しているって可能性は高いよな!」

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