第70話.坑道の最奥に待つ者

 大部屋のコボルト達が動き出した事で、俺達の侵入や居場所はバレているはず。だから、あまり検証に時間はかけれられない。


 再びコボルトの居るであろう、坑道の最奥を目指すが、他にも捕らわれた精霊が居るのか、まだ知らない何かがあるのか、それは分からない。


 だんだんと強くなるコボルトの臭い。そこに少しだけ、違う臭いが混ざり始める。


「この臭い、普通のコボルトじゃ無い!」


『ここは鉱山の中。他の臭い、例えばガスとか有害物質の臭いが混ざっている可能性はないの?』


 相変わらず、一般的な意見を的確に言ってくれるムーア。異世界において一番辛かった事は、全てが自分で考え判断し決定すること。答えの無い思考の無限ループに陥っても、すぐに俺を現在地に引き戻してくれる。


「ゴブリンキングの嗅覚は違うんだ。上手く言えないけど、甘いとか酸っぱいとかじゃないんだ。臭いが形や数字になって感じるんだよ?」


『何それ、どういう事?』


「精霊でも魔物でも沢山の種類がいて、似た臭いは沢山ある。オオザの崖の洞窟に、精霊やゴブリンの核が沢山あっただろ」


『ええ、覚えてるわよ』


「ゴブリンキングの嗅覚は、臭いを形で判断出来るんだよ。普通のゴブリンの臭いは正方形。そしてゴブリンキャプテンの臭いは、明らかな長方形。どんなに微かな臭いでも、長方形が正方形になることは無いだろ」


『それは、コボルトに上位種が居るって言いたいの?』


「上位種なのか、変異種が存在すかは分からないけど、未知の存在であることは間違いない」


 アシスの常識とは明らかに違う存在という点では、俺とも似ている。何かの手掛かりになるのではと、少し期待してしまう。


 クオンの探知に反応はないが、臭いはさらに強くなる。そして坑道の変化が表れる。奥に進んでいるのに地面が舗装された石畳へとなり、奥からは明かりが見える。何かを燃やした光ではなく、白っぽい光。少しずつ光源に近付いていくと、何かが足元に置かれている。


「マジックアイテムか?」


 丸い水晶のような光る石が置かれ、放つ光はリッターに似ている。思わず手に取ってみる。


「これはリッターの魔力と同じゃないか?リッターはこのマジックアイテムを作るために捕まってたのか?」


“奥、何か居る。1人だけ”


 クオンが坑道の奥に、何かを探知する。これが最後で、もう他には何も居ない。相手の動きを警戒しながら、少しでも音を消すようにと慎重に進む。


 奥のコボルトであろう何かも動かない。罠を張って、じっくりと待ち構えているのだろうか?俺の探知スキルも全開で、坑道の些細な変化を探るが、何も起こる事なく坑道の奥が見えてくる。今までとは違い、小部屋は存在せずに、現れた大部屋。


 そこに居るのは、コボルトではなくドワーフ。部屋の中央に仁王立ちし、前には剣を突き立て柄の上に両手を上に載せ、微動だにしない。


 しかし漂う臭いはドワーフではなく、コボルトの臭いが変異したもので、臭いの正体は間違いなくこのドワーフから発せられる臭い。

 

 そして極めつけは額にある大きな宝石。サークレットではなく、恐らく額に埋め込まれている。


「あの額の宝石が、臭いの正体。恐らくコボルトの魔石だろ」


『あんなに大きな魔石なんて、キングクラスじゃないの?』


 この世界を知っているだけに、ムーアの驚きは大きい。


「ドワーフが作り出した、人工的な魔石かもしれない。確証はないけどな!」


『精霊を犠牲にして魔石を造り出してるなんて。それが本当なら許せないわ!』



 部屋の入口の前までくるが、コボルトの石像であるかのようにドワーフは動かない。コボルトと違うのは、身体はドワーフのものである事。動かないだけで、身体の生命活動はあり、クオンの探知は呼吸や心臓の動きを感じている。


 俺達に大部屋や坑道を崩落させるだけの知識やスキルはないが、ハンソの岩で坑道を塞げば、それで終わりになるかもしれない。

 しかし全ての秘密は、あのドワーフに聞くしかなく、それが何かの秘密を解く手掛かりとなる。


『いつでも、イイわよ♪』


 精霊達には聞くまでもなく、すでに臨戦態勢。一部の精霊には、“待て”をかけた状態。


「今さら、引けないよな」


『私達は精霊よ。あなたの声を聞くのではない。あなたの意思を聞くのよ!意思の込められていない言葉は聞こえないし、誰も従わないわよ』


戦いたいだけだろと言いかけて止める。


「それじゃあ、行くか!」

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