第68話.共存

 ムーアに言われるまで、精霊同士の相性については考えた事がなかった。


 俺の無属性は、どの全ての属性に対しても、良くもなく悪くもない。良く言えばバランスが取れている、悪く言えば中途半端な適性。

 最近では適性もあくまでも個人の能力を判断する為の1つの判断材料でしかなく、それが全てではないとも思える。無属性が中途半端な適性だったとしても多くの精霊が力を貸してくれる。

 それだけでも十分に感じるが、それは俺だけの話でしかない。


 召喚者と精霊の関係では、“火”と“水”のように相反する属性が存在する事はある。

 仮に俺が“火”の属性を持っていたとしても、“水”の属性の精霊と契約し召喚する事は可能である。

 その水属性の精霊の力は弱められてしまうが、それでも俺が契約に値する価値があると判断されればの話。


 精霊同士の場合ではどうなるか。

 “火”と“水”の精霊が同時に存在すると、互いの存在に影響を与えてしまう。魔力の弱い精霊は、存在を顕在化する事は出来ずに消えてしまう。


 そして、問題になるのが契約のブレスレット。

 俺は契約のブレスレットというマジックアイテムを介しての召喚魔法を行使する。精霊達の核はブレスレット内にある為に、限られた空間に相反する属性が存在してしまう。


 これは成立するのだろうか?咄嗟にダークをクオンの影の中に移動させたが、根本的な核はブレスレット内になる。


 今さら焦っても、時すでに遅し。ヴァンパイア達に声を掛ける。


「体は大丈夫か?何か変わった所はないか?」


 フォリー、ダーク、マトリが影から現れ、代表してフォリーが答える。


「特に異常も問題も見られません」


 月明かりでも、その存在を維持出来なくなるはずのヴァンパイアに異変はない。


『何故かしら?』


 ムーアがブレスレットの中から出てくる。ブレスレット内でも、特に問題は見られない。逆に俺と契約した事により、光の精霊リッター達は少し進化が見られ、悪影響は出ていない。


「光と陰が同時に存在しても大丈夫という事なのか?」


『今はブレスレット内での精霊核だけの話になるわ。召喚された状態では、どうなるかは分からないわね』


「遠慮なくお試し下さいませ。カショウ様のお役に立つ事こそ、我らの願いにございます」


 フォリーがダークの腕を取り、前へと引っ張り出す。畏まって一礼すると、フォリーとマトリは影の中に消えていく。


「ダーク、そうなのか?」


「遠慮は入りません。そうよね、ダーク兄さん!」


 影からフォリーの駄目を押す声が聞こえる。ダークは喋ることも出来ず、コクコクと頷く。ダークの顔を見るが、引きつった笑顔は一応覚悟は出来ているようだ。


「ダーク、お前の覚悟は無駄にはしない」


 俺が躊躇わないことに、一瞬だけ“えっ”という表情に変わるが、今はその時間が勿体ない。


「リッター、出てこい!」


 光の塊が現れるが、さっき見た砂のような塊ではない。少しボリュームが増して、ふっくらした感じにまで回復している。


 そして、ダークは両腕を交差させ顔を隠す。顔を隠す事に何か効果があるのかと思い、まじまじと見るてみるが、リッターから顔を反らし目をつむっている。ただの反射的な反応。


 このまま様子を見てみようとも思ったが声を掛ける。


「ダーク、大丈夫か?」


 交差している腕を元に戻し、握りしめた拳の力を抜く。何回か手を開いたり閉じたりを繰り返す。


「恐らく、問題はありません」


 ムーアがダークに近付いてきて、ダークの体を触りだす。ムーアの真剣な眼差しに、ダークは動くことが出来ずに硬直している。


『本当に問題なさそうね。無属性の魔力のせいかしら?』


「無属性が関係あるのか?」


『召喚解除されてブレスレットに戻るとき、魔力が少し残るでしょ。残った魔力は時間をかけて、再びあなたに取り込まれるって話は覚えてる』


「その魔力を利用して探知魔法を使ってるから、覚えてるよ」


『精霊達はね、無属性のあなたの魔力を取り込み、それぞれの魔力に変換するの。それがどういう事か分かる?』


「何を言っているんだ?」


『あなたは、私達の魔力を吸収する事が出来る?』


「無属性魔法の上位スキルの魔力吸収が使えれば可能だろうけど、今の俺では無理だな」


『それじゃあ、吸収しているのは誰の魔力になる?』


「俺の魔力が残ってるって事か?」


『そう、あなたの魔力よ。ここからは仮説になるわ』

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