第36話.セイレーンの姿とベルのスキル

 ベルはブレスレットの中で、俺の魔力を吸収し回復する。外に出ていても魔力は供給されるが、中の方が供給スピードは早い。


「ベル、出てこい」


 俺の前にベルが現れる。バサバサだった翼もきれいになって、体も綺麗になっている。


「少しは元気になったか?」


「ありがとっ、もう大丈夫っ」


「元気そうなら聞くけど、本当にセイレーンなのか?」


「そうよっ、ナイスバディな、セイレーンよっ!ゴブリン達に捕らわれて、今は可哀想に小鳥の姿にっ」


「それ、ウソだろ!」


「な、な、なんでっ?信用てくれないのっ!」


「ウチにも魔力切れにされて捕まった精霊がいるんだけどな、魔力切れになっても姿は変わってないぞ」


「ウ、ウ、ウソよっ、ワタシはナイスバディな精霊なのっ!そして、あなたは私の事を放っておけないわっ」


「ウチにな、酒の精霊が居るんだけど、この意味が分かるか?正直に話すように頼んでもイイんだぞ」


「お姉ちゃんからナイスバディな精霊になるって聞いてるわっ。手元に置いておきたくなったでしょっ!」


「お姉ちゃんもいるのか?」


「2人いるわよっ。ワタシと一緒で捕まってるのっ。もしかして、助けてくれるのっ?」


「もしかしたら助けれるかもな?ちゃんと働いてもらうけど!」


「えっ、働くのっ?」


「そりゃそうだよ。ただ程高いものはないからな!それで何が出来るんだ?」


「ナイスバディになれば誘惑の歌が歌えるんだけどっ。えっと、今は離れた人とでもお喋りする事しか出来ないのっ」


「それって、凄くない?」


「えっ、そうなのっ?」


「あそこに、一本角のオニがいるだろ。あいつと話出来るか?」


「大丈夫よ、普通に話しかけてみて」


「ソースイ、後ろを向いてくれ!」


 キョロキョロと辺りを見回してから、後ろを振り返る。そして、俺が離れた場所にいる事に驚くソースイ。


「ソースイ、何か喋ってくれ」


「カショウ様、何が起こってるのですか?」


「ベル、誘惑の歌より、こっちの方が凄いぞ!」


「そっ、そっ、そうよ、ワタシは凄いのよっ♪」


「誰の声でも聞こえるのか?」


「ワタシが分かる範囲でしか無理っ」


「見えなくても、場所が分かれば大丈夫なのか?例えば、木の後ろとか茂みの中とか?」


「うん、大丈夫っ」


 少し閃いて、ソースイ、ルーク達、ムーア、ブロッサに隠れてもらう。ムーアは、この歳になって隠れんぼとブツブツ言っているが気にしない。


「クオン、ベルに隠れてる場所を教えてくれ。ベルは隠れてる場所と喋れるようにな」


「「わかったっ」」


 クオンが短い言葉でベルに矢継ぎ早に場所を伝える。ベルもウンウンと頷き、しっかりクオンの言葉を理解しているみたいだ。意外と頭は良いのかもしれない。


「倒木の後ろ、茂みの中、ゴブリンの鎧の中、一番大きい木の上。聞こえたら、こっちに集合してくれ」


 倒木の後ろからソースイ、鎧の中からルーク達、茂みの中からブロッサ、木の上からムーアが降りてくる。

 ブツブツ言っていたムーアが、一番気合いが入っていた・・・。もう一勝負といった顔をしている。


 皆にベルのスキルの説明をする。更にクオンの探知と合わせると、離れた場所でも会話が出来る。戦闘でもそれ以外でも役に立つこと間違いなし。

 そして、ベルのドヤ顔。今日だけは大目に見ようと思う、今日だけはな。



「これが本題だけど、なぜ捕まった?」


「分からないのっ。急に魔力を吸い取られて、気付いたら足に輪っかが付いててっ」


 魔力を吸い取られたのは、ブロッサと似た感じだろう。まだ力の弱い精霊だから、様子を伺わなくても、多少強引でも大丈夫。そして足の輪っかは、魔力の吸収を疎外するアイテム。


「ムーア、こんなマジックアイテム、この辺りでに手に入るか?」


『こんな小さなマジックアイテムは、オニ族の村のドワーフ達には無理だわ。ドワーフの町でも作れるかは分からないわ』


 やはり、ゴブリン以外にも何かがいるはず。


「ベルもう1つ聞くけど、捕まって何させられてたんだ?」


「玉から音がしてるから、そこまでの連絡係させられたっ」


「どんな連絡させられたんだ?」


「何喋ってるか分からないけど、ワタシ達は音を記憶出来るからっ。それに、どこにいるかって場所が分かるから、迷子にならないのよっ」


「今まで、どこに連絡に行ったか覚えてるか?」


「覚えてるわっ、ワタシは記憶には自信があるんだからっ!」

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