精霊のジレンマ～古の記憶と世界の理～

オオザの崖のゴブリン

第29話.ドワーフの店とポイントカード

　オオザの崖に向かう前に、最低限の物は揃える必要がある。ソースイが仲間になった以上、新しい装備を揃える必要がある。

　身に付けている革鎧は、ハッキリいってボロボロ。形として残り、身に付けている事か奇跡に近い。そして盾は大きすぎる。高身長のオニが隠れる程の大きさ。よくこれを持って、森の中を移動していたと思う。

　それに、俺だけなら多少のキズは回復してしまうが、普通ではそうはいかない。ポーションなどの回復アイテムも必要になるし、当然それを入れる鞄も必要になってくる。

　そして、オニ族の村にはドワーフの店しかない為に、狭い店には品物が山のように置かれている。武器や防具、ポーションなど回復アイテム、鞄、革製品など取り扱う品物は多岐にわたる。

　店に入ると、ヤッシが声をかけてくる。

「装備を揃えるんだろ。格安で百万ウェン以内にしてやるぞ」

　何故、それを知っている。そして、俺はまたしても嵌められた事に気付いた。

　何となく安直に考えていた俺が悪い。

　こんなバカでかい館を自負心と探究心とタダ酒だけで造るくらいだから、武器や防具なんてタダみたいなもんだろよ。

　そしてオニ族の村は、ドワーフの店しかない。俺が使った金は、そのままソーギョクへと流れる。どう考えても、ヤッシとソーギョクは繋がっている。ズブズブの関係ってやつだ！

　後で知る事になるが、オニ族の御神酒は非常に高価。神が認める酒だから、安いはずがない！

　それだけでも資産は少なくはない。自給自足ではなく、個々のオニ達に払わせなくても大丈夫なだけの資産がある事は、冷静に考えたら分かったはず。

　もしかして、まさかと思うがソーキの暴走は計算？それさえもが、分からなくなる。オニ族の闇は深いかもしれない。

　あいつ・・・ムーアも知ってるだろ・・・普通に考えたら。ムーアに仕事を振ったばかりだから、きっと仕返しに弄ってくる。

　何とか平静を装って、声を出す。

「ああ、予算内で揃えてくれ。とりあえず大きすぎる盾とボロボロの鎧は新しくする。ソースイ、武器はどうする？」

　ソースイが使っている武器はハンドアックスで予備の武器にダガーを持っている。大きな盾を持つ為に、小型の武器を選んでいる。

　ソースイが申し訳なさそうな顔をする。

「武器ですが、大きな武器は特にですが、すぐに潰してしまって・・・。それで、今の大盾とハンドアックスの形になっています」

「大盾を持って動けているから力があるのだろうけど、そんなに凄いのか？」

「いえ、重力操作スキルの影響です。試し切りさせて貰って宜しいでしょうか？」

「お得意様だ、好きに使ってくれ♪」

　試し切り用の為に木の杭に鎧が着せてある。ソースイが前に立ち、ハンドアックスを振り上げる。

「グラビティ」

　ハンドアックスが一瞬だけ黒く光ると同時に、ソースイが振り下ろす。

　魔法によりハンドアックスの重さが増す。ソースイの力に重力加速度が加わった斧は、木の杭ごと鎧を叩き潰してしまう。

「どうでしょうか？使える武器はありますでしょうか？」

「うむ、そこまでの力に耐える素材はここには無いわい。もし素材を持ち込むなら、タダで造ってやるわい。予備の武器を持つなら、用意するぞ」

「ソースイ、何にでもグラビティは使えるのか？」

「物でなくても、生き物でも大丈夫です。ただ魔法抵抗があるので、効果には個人差が出ます」

　武器の重力操作はもちろん、人や魔物にも有効なのが凄い。武器が短くても、十分に速さで上回れる。

「とりあえず、盾と鎧を決める。予備の武器は、俺の短剣があるから大丈夫だ」

　ヤッシは武器では使える物が無かった為に、その分防具では気合いを入れている。森の中を移動する為に、軽装の革鎧ではあるが、所々にトラの毛皮で被われている。柔らかく防刃性に優れている。

　盾はソースイの要望で、今までの戦うスタイルを変えないで、なるべく大きく且つ森の移動も可能なヒーターシールドになった。

　ソースイとしては、いつかは俺のマジックシールドのようなダイヤ型の盾を持ちたいらしい。

　俺がマジックシールドを武器にして戦っているのを見て真似したくなったようで、俺の見ていないところでヤッシに聞いている。

　後はポーションなどの回復薬や入れ物などを含めて、合計８８万ウェン。

　オニ族の護衛のバイトをしたと思えば、まだ納得出来る。２４時間働いて１２万ウェン。時給５千ウェンなら、割りの良いバイトだ！

　最後にヤッシがポイントカードを作ってくれた。１０万ウェン毎に１ポイントで、１０個たまると次回のお買い物で５千ウェンの割引になるそうだ。ニコニコドワーフのスタンプが捺してあるのにイラっとする。

　ただアシスのドワーフの店では、どこでも使用可能で有効期限もないと聞いて、黙って財布にしまうことにする。