第30話.グラビティとブクマ
ソースイとの連携を確認する為に、村の結界の外に出る。お互いの戦い方を知らないと連携出来ないし、なるべくなら他のオニ達には知られたくない。
ソースイ自身も闇魔法について分かっていない事が多い。闇属性自体が忌み嫌われ、オニ族の村では今までに現れた事が無かっただけに、あくまでも自己流で高めてスキルになる。
「グラビティ」
ソースイに魔法を発動させて、ゆっくりと近付く。10mくらいの距離で、体が重くなる。精霊と融合した体は魔法抵抗力が高く、若干重く感じる程度。俺自身も、魔法抵抗力を確かめる事は中々出来ないことでもあるので、予想外の収穫でもあった。
検証した結果は現状ではグラビティは、対象となる物を5倍くらいまで重くする事が出来る。スキルが上がれば、さらに効果は上がると思う。生物の場合は個々に魔法抵抗があるので、それによって効果に違いは出る。
そして、俺達の目の前に居るのは、この森の生物で最強種の1つ、熊の大型種のブクマがいる。ちなみに最強種は、パントラ呼ばれる虎、コーヒョウと呼ばれる豹、ブクマの3種。
その中でもブクマは少し劣る存在。かなり攻撃的な性格だが、ちょっと頭が残念でもある。俺とソースイの連携を確かめるには、単純なブクマは良い相手でもある。
「ヘイヘイヘイッ」
右手を前に出して、掌をうえに向けて指曲げる。
何となく挑発された事が分かったようで、ブクマが猛スピードで突っ込んでくる。
「グラビティ」
魔法の範囲内に入ったブクマは、頭から上半身とで体重が増える。急な体重増加でバランスを崩し、頭から地面に突っ込んでしまう。
俺はゆっくりとブクマに近付く。
「魔法抵抗の低い相手なら、ソースイに近付く事も出来ないな」
「カショウ様は問題ないのですか?」
「俺の体は問題ない。ただ持っているモノは重くなってる。これなら相手自身よりも、持っている武器や装備にグラビティをかけた方が効果あるな」
そして、グラビティ魔法の範囲内でも、マジックシールドやマジックソードは自由に扱える。もともと俺の体の一部の魔力体だから、魔法抵抗力も高い。
そして俺の無属性魔法とソースイの闇属性魔法は、相性が良かった。
俺は動けて、敵は動けない。俺には影響を与えれないという、最高の相性といえる。
欠点といえば、使用する魔力量が多い事。全範囲に渡ってグラビティを使用する場合は、3分が限界。部分的に範囲を絞れば、倍くらいは使えるだろうが、今のところスキを上げる必要がある。
せっかくブクマが居るから、練習相手になってもらう。魔法抵抗力も低く、練習相手には最適といえる。
しかし、それを野生の本能で察知したのか、後退りして逃げようとするブクマ。
「ヘイヘイヘイッ」
しかしブクマの体が反応して、後退から前進、そして突進に変わる。頭より体か先に反応するタイプだ。
「グラビティ」
ソースイがブクマの右半身のみを狙って重力操作すると、直進出来ずに斜めに走っていく。
今度は、右半身から上半身を狙うと、ブクマは転がるようにして倒れる。端からみると、気功の名人に襲いかかる弟子を見ているような感じもする。
「ソースイ、ブクマを傷付けたらダメだぞ。こんなイイ練習相手はいないからな!」
ブクマはアシスでも大型の獣。体重は5百キロはある為に、グラビティの練習にもってこいの相手。
「ブクマで慣れたら、素早い相手にも試してみたいですね」
「そうだな、クオンに探してもらおうか?」
そのクオンは今はルーク達を追いかけて遊んでいる。人が居る所では俺の影に潜っているから、久しぶりに外で自由に動けている。
影の中がどうなっているかは聞いた事はないが、過ごしやすい所ではないのだろう。
クオンは楽しそうだが、ルーク達が真剣にな眼差しだ。ルーク達も最近は成長してきた。まだ二頭身の体は変わらないが、顔には表情を見せるようになった。
仕事でも遊びでも、全力でやるのは良い事だと思う。もの凄い速さで逃げている。追いかけるクオンも楽しそうだ。
“何するの?”
俺の言葉に気付いたクオンが、鬼ごっこを止めて、こっちに寄ってくる。
「まだ遊んでて大丈夫だぞ。後でソースイの練習相手に、パントラかコーヒョウを見つけて欲しいんだ」
“わかった”
クオンが俺の横に来て座ると、ルーク達が前に並ぶ。1人ずつ順番に光ると、それぞれが違う方向に飛んでゆく。
「クオンとルーク達は仲良しだな」
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