第20話.変化と小さくて大きな一歩
オニ族の最後尾に追い付く。
追撃戦になる事も想定していたが、ゴブリン達の追撃は無かった。ここでもクオンの気配探知の凄さを思いしらされる。
後方を気にする必要の無い安心感は、精神的負担を無くし移動速度を上げてくれる。
殿のソーイが気が付いて近付いてくる。
「カショウ様、ご無事で!」
「別にお前の主君でもないだろ。俺の都合で行動しただけで、お前らには関係ない」
「しかし“オニ達の援護にまわる”と、ハッキリ仰ってましたので」
「気のせいじゃないか?俺は、名無しの盾オニに助けられたけどな」
「それは・・・」
「そんな事より、ゴブリン達は追ってこない。湖に留まったままだけど、お前達はどこまで進むつもりだ?ちょっと話をしたいんどけどな」
「直ちに報告してまいります」
ゴブリン達の包囲を抜けたので、今後の方針はオニ族の村に戻る事になる。もちろん俺も報酬を受け取りにオニ族の村に向かう。
それまでに片付けたい事がある。それは湖の水質悪化の原因となった、ブロッサの事。ブロッサが悪いわけではないが、オニ族が危うい状況に陥った原因のブロッサに良い感情は持たないかもしれない。
ソーイがソーギョクとソーショウを連れて戻ってくる。ソーギョクとソーショウが話す前に、こちらから先制する。
「少し話があるんだが、大丈夫か?」
「もちろんです。こうして話が出来るのもカショウ様のお陰です」
「そういう無駄な話は無しで、本題に入る。ブロッサ出てこい」
俺の横に、黒と赤縞の蛙が現れる。ブロッサは、ゴブリンとの戦闘時に姿を見られている。舌を伸ばし枝から枝へと移り、毒の霧を撒き散らす蛙は、目立っていたはず。
「この蛙が湖の毒の原因だ!」
申し訳なさそうにブロッサが頭を下げる。
「ゴメンナサイ。ゴブリンニ、ツカマッテタ」
ブロッサはアシスでも古い精霊。アシスという世界が誕生した時からの精霊になる。
しかしブロッサは表舞台に出る事は、ほぼ無かった。生き物にとって、毒とは嫌う存在。そこにあるだけで、問題視されてしまう。
だから地下に潜り、ただただ隠れて過ごしてきた。地中に居る毒蛇や蜘蛛は、同族のような存在。近くに同族が居るだけで満足だった。
戦乱が起こり大地が荒れる度に、少数の蛇や蜘蛛を連れて棲みかを移し、たどり着いたのがヒケンの森。湖の側に穴を彫り、そこに隠れ棲んだ。
しかし何者かの罠に嵌まり、ゴブリンに捕らわれてしまう。表に出てこない事を利用し、穴の周りに結界を張り魔力が流れ込むのを止められた。
ほんの少しずつ徐々に魔力を失い、変化には気付けなかった。動けない状態になって初めて異変に気付く。
後はゴブリンに捕まり、強制的に湖に毒を吐かせ続けられる。これが事のあらまし。
「経緯については分かりましが、私にどうしろと?」
「ゴブリンから解放して、今は俺と召喚契約しているが問題は無いか?反発する者も出てくると思うが?」
「オニ族の恩人であるカショウ殿に言える立場ではないが、私としてはブロッサとやらがカショウ殿と一緒であればオニ族としも安心出来る」
「それなら、こっちも安心してオニ族の村に報酬を貰いに行けるな。どうだムーア?」
出てこないムーアを呼び出す。
「お前も、これでイイな」
『私とブロッサは同類よ。酒も過ぎれば毒にもなる。毒も程度問題では薬にもなる。ブロッサの事は他人事とは思えないわ。人前に出ず隠れてきたのも同じね』
「ぼっちは、ぼっちの気持ちが良く理解出来るって事だな」
『あなたも“ぼっち”でしょ!』
「喧嘩ヨクナイ」
『あんたが、一番ぼっちなのよ!だいたい古い精霊なら、普通は人型でしょ!』
「人型デ契約詐欺師ナラ、コノママデイイ」
『だいたい蛇のボスが蛙って、可笑しいでしょ?』
「そう言われたら、そうかもな」
「カショウマデ、ヒドイ」
「示しが付きません!」
『「・・・・・・」』
ソーギョクの丁寧な言葉遣いに、ギクッとする。
「オニ族の族長としては、カショウ殿への報酬が短剣だけでは他に示しが付きません」
俺達の会話が止まるのを待って、さらにソーギョクは続ける。
「ブロッサ様も、ここに居るオニ達の命の恩人。反対するようであれば、私が責任を持って対応する!」
ブロッサも心なしか、安心した顔をしている・・・ような気がする。まあ、引きこもりから外に出るわけだから、俺と契約した事も大きな決断だろうけど。
「そうだな、見せたくない手の内も見せてしまったしな。じゃあ追加の報酬で、盾オニに名前を付けさせてくれ!」
「・・・私としては、問題ないがカショウ殿は大丈夫なのか?」
『カショウ、名付けは強い意味を持つのよ。大丈夫なの?』
「そうだな、忘れてたな。盾オニが嫌がる可能性もあるな?聞いてみてくれ!」
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