異世界おっぱい魔女にキノコが元気だす! 他、ショートショート集

西木ダリエ

第1界 異世界転移したら神がボケてた(2200文字)

 お爺がトラックに轢かれそうだったところを、偶然目撃した俺は、柄にもなく助けに走っていた。


 自慢じゃないが、俺は小学校の頃から徒競走は常に最下位、逆上がりすら出来ないほど運動ニブチンだ。

 それは高校になった今も変わらなかった。


 お爺を助けるだなんて、俺にとっちゃ随分無理をしたものだ。


 お爺の方は、何とか事なきを得たそうだが、おかげで俺は死んでしまった。



 ――そう神に告げられた。


「エーテル体となりVR世界のような天国でまったり暮らすか、

新たな命として生まれ変わるか、

総人口の少ない異世界へ肉体を修復したのち転移するか選ぶがよい」


 俺が助けたお爺に妙にそっくりな神は言った。


 総人口が10億人程度の異世界への転移なら、能力値を俺の希望通り振り直してもオッケーだという。

 俺はその話に乗ってみることにした。


 運動ニブチンな俺は、常々、ベル◯ルクのガ◯ツのようにデカい剣をブン回し、無双出来るようなキャラに憧れていたのだ。


「はて、ベルクのカッツェ? 科学忍者隊の悪役かのう?」

「ベル◯ルクのガ◯ツだ! あんた神なのに読んだことないんか!?」

「うう……昭和40年代までのことしかわからんわい」


 ……大丈夫なのだろうか? この神は……ボケてるんじゃ?


 とにかく、転移後の能力値だが、

賢さは平均で、筋力メインに運動能力に全振りしてくれと注文しておいた。


 *


 リザードマン数匹と戦ってるパーティーを目撃した。


 剣と魔法の中世ヨーロッパ風の異世界! ……に俺は今、確かに立っていた。


 俺は直ぐに、冒険者ギルドに登録したのだが、ようやく俺を入れてくれるというパーティを紹介してもらえたのは、それからひと月後となる。


 ひと月間は、ソロでスライムやらコボルトを倒し続け、日銭を稼ぎつつ、レベルを上げるしかなかった。

 たったひと月とはいえ、ボッチだしかなり苦労した。

 わびさびってのはあるかもだが、酷くひもじい……。何度か泣いた夜もあった。


 ――おかしい。

 武器・防具屋に寄ったおり、試しに大剣を握ってみたり、重い鎧を試着してみたのだが、

俺には全く扱えそうにないのだ。

 ベル◯ルクのガ◯ツのようになってるはずだが?

 これじゃ、幼少期のガ◯ツにすら、遠く及ばないじゃないか。

 短剣と少し革をあしらった軽装が、せいぜい関の山だった。

 俺のクラスだが、どうも盗賊のようだ……。

 絶対、おかしい。



 そんな俺を入れてくれるというパーティーとは、アンデットのクエストを専門に受注するパーティーだった。

 戦士1名に、僧侶が2名で、呪い耐性に自信ありという点を強みにしているパーティーだ。


 俺には入るパーティーを選べるほどの力なんてない。

 入れてくれるのなら、どんなんだっていい。

 戦士が酷いワキガでも。

 むしろ、こんな俺を入れてくれるとか、必要としてくれるとか感謝しかない。


 ……それにしても、どうにかまたあのジジイと話す機会はないものか。

 能力値に何も変化がないのは、なんとかしてもらいたいところだ。



 呪い耐性に自信ありなパーティーと言っても、何の事はない。

 僧侶が2名居るだけで、呪いを解除出来るスキルを持ってるというだけだ。

 時に、そんな僧侶だって二人揃って呪い攻撃を受けることだってある。

 俺のパーティー内での役割は、そんな場合に備え、仲間が1名でも呪いにかかったら、即、聖水などのアイテムで解呪して回ることだった。

 

 しっかり警戒はしていたものの、当の俺は何故だか一度も呪いにかかったことがなかった。


 不思議に思っていた俺に、ある日、斧戦士のエレキサンダーが言った。


「お前、ほんとすげえな。どんな特異体質だよ。てっきり伝説級の装備でもしてるのかと思ったぜ。呪い耐性100パーセント、つまり呪い無効なんてな」


 えっ……。そう言う事だったか。

 あのモウロクジジイの神、ボケかまして呪い耐性に全振りしてたのか……。

 どおりで……。


 俺は、幸いなことに皆にすっかり良くされていた。


 なら、もっとパーティーに貢献したい、する方法はないかと考えた。

 皆にもっと良い装備をしてもらいたい! 最強パーティーを目指そうじゃないか! などと考え末、

なんと、一攫千金をゲットするのに成功したのである!

 いや、今なお大金が入り続けているのだ。


 錬金術師が使う素材の中でも、とりわけマンドラゴラは高価だった。

 それをごっそり収穫してしまうのである。


 マンドラゴラが自生してる所は、大抵、罪人の処刑場だ。

 罪人の血や体液などがしたたり落ちて染み込むような。


 マンドラゴラは、よく知られてると思うが、引き抜いた折り、狂気の悲鳴を上げる悪魔のような根菜だ(いや、根菜のような悪魔か?)

 その悲鳴を聴いてしまった者は、気がふれ、直ぐに死んでしまう。

 そういった呪い属性の災いが降り掛かるのである。


 錬金術師たちが高値で買い取ってくれるだけではない。

 処刑場の役人からも感謝され、報酬を得る事が出来た。

 役場としても、マンドラゴラを恐れるあまり、重罪人を処刑しあぐねていた事も多かったという。

 罪人どもをガンガン処刑するようになると同時に、マンドラゴラもガンガン収穫出来たのだった。


 二人の僧侶の一方は、

最近、商人へとクラスチェンジした。

 僧侶のままの、水色の髪に赤い瞳の少女は言った。

「あなたにしか出来ないお仕事ね」

 

 僧侶は続けた。

「何だか、私たち、すっかりおんぶに抱っこで申し訳ないわ……」


 いいさ、いいさ。

 キミが湯浴みしてる隙を見計らって、おパンツ失敬したって、

キミは何時だって黙って見逃してくれてるじゃないか。

 


 ――とんだボケをかましてくれた神。

 今じゃ感謝せずにはおれなかった。




〈完〉

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