第94話 精霊魔法の誤った使い方
くちゃっ、ちゅぷっ、くちゃっ、ちゅぷ……
卑猥な音を響かせているが、単に長靴が水を張った田んぼの中を進むマロンの足音である。
水を引こうと川から用水路工事を始めてから三日、農家見習いや農業女神の加護の効果もあってか、既に田んぼとして機能するには充分に仕上がっていた。
フォルテに依頼し、苗を購入し、一人一面田んぼに苗を植えていく。
ただし、巨大すぎるのでクマモトらぷたは何もしていない。
その代わり、下級精霊魔法で水と土の精の力を借りて、田植えの手助けはしている。
「田植えもやってみると楽しいね。」
スキルと職種がサポートするとはいっても初めての田植え。
農業の女神のところで修行はしていても、自分の力で一から作業するのは初めてのため自身はなかったが、それなりに形にはなっていた。
尚、苗は「フタマタ」と「ウワキモノ」と「ブルマコマネチ」いう品種をフォルテから購入していた。
いずれもこの国で主要の品種の米である。マロンはいつか品種改良で、自分だけのブランド米を作る野望を抱いている。
田植えでどろどろとなった身体を、仲良く風呂に入る事で綺麗にする。
「体勢のせいか腰が痛い……」
「そんな時は……」
アクアが精霊魔法で精霊を呼び出した。
「水の精霊の定番・ウンディーネちゃん。」
ウンちゃんとかウンネちゃんと愛称をつけたらご機嫌斜めになりますよと、アクアが注意した。
そして
「ひゃんっ、あっあぁぁあぁぁっぁっ」
ウンディーネは水の精霊、つまりはその両手はひんやりとしている。
ウンディーネの指圧マッサージは患部を冷やしながら押すのである。
人によっては敏感にその恩恵を受け、気持ち良いに気持ち良いが乗り、2乗となる。
マロンが艶やかな声を上げてしまうのも無理はない。
「んあかひっとぽいんとが回復していくかんかくもほぉ。」
ウンディーネの贅沢な使い方、決して正しい使用法ではない。
全プレイヤーを探しても、マッサージのために呼び出すのはマロン達のノリに浸かってしまったアクアくらいのものだろう。
「それなら私も良い方法が知ってるよ。」
窓の外からクマモトらぷたの声がしたかと思うと、木の精霊ドリアードが小屋の中にこんにちはしていた。
「では私は足つぼマッサージを……」
「ぎゃひぁっぁあっぃいぃぃぃぃぃああいぁいいぃあいあいぁいい。いだだあだいあいあいあだいいだい。」
プレイヤーであるマロン達は知っている。たまにテレビ番組で主にお笑い芸人やお笑い担当アイドルが、有名な足つぼマッサージ師からの強烈な洗礼を受けているところを。
ぐりぐりと棒のようなもので足裏をえぐるように、ごりごりと削るようにツボを押して擦っているところを。
まさかドリアードに洗礼を受けるとは思ってもいなかった一同。
クマモトらぷたの善意がマロン達を泣かせた。
【称号:ギャン泣きを取得ました。】とマロン達3人に。
【称号:幼女泣かせを取得しました。】とクマモトらぷたの脳内にアナウンスが響いた。
運営の考えている事が全く理解出来ない称号の種類とその取得条件である。
田植えが終わると暫くやる事がない。ゲームという事もあり、スキル等も存在する以上現実の稲作と同じというわけではない事はマロン達も想像はしている。
それでも現状農家作業はする事がないので畑の作業をついでに進める事にした。
耕して、肥料を混ぜて、種を植えて、水を撒いたらあら不思議……育てるものによって違いはあるものの数日で採取可能となる。
胡瓜、茄子、ゴーヤーと一歩間違えば卑猥な事に使われてしまいそうな野菜も勿論収穫している。
「そういえば、川にウグアユがいっぱいいたから、アクアの池に放しておいたよ。」
職種としては得ていなくとも、なぜかスキルに釣りがあるため、暇を見つけてはマロンは川でウグアユを釣っていた。
リリースせずに小屋に持ち帰り、アクアの池に放していたのである。
聖水と、アクアの出汁が染みた池の水。当然何も起こらないはずもなく。
誰も説明が出来ない成長をし、川のウグアユよりも大きく身が引き締まっていたのである。
「カツオくらい大きくなってるし。」
特段養殖していたわけではないのだが、池の中でカツオサイズのウグアユが多数増殖していたので、一部を食し一部をフォルテに売り付け、瞬く間にラマン商会では即日完売の人気商品の一つとなっている。
「本格的に養殖しても良い気がしてきたよ。」
「産業とスキルや職種がが追い付いてないので、落ち着いたら良いんじゃない?」
「私の池なんですけどね……」
マロンが新たな事業に手を出そうと意見を出し、トリスが時期尚早だと待ったをかけ、アクアはげんなりとしていた。
田畑で農業、息抜きで釣りと養殖、合間にトリスは木工細工を作ってレベルを上げ、アクアは案山子を作って槍の訓練を行い、マロンは農家見習いのレベルアップを目指していた。
余談となるが、アクアは横やりというスキルを入手していた。
槍の要素はどこにもないにも関わらずである。
「あ~、農作業をずっとしてると足が案山子になってくるよ。」
時たま手伝うトリスが腰を押さえながらノビをしている。
「案山子だかこけしだか知らないけど、慣れるまでは確かに身体中感じてくるよね。」
若干噛み合っていないマロンの返事。疲れや痛みなどを感じるという意味でいったのだが、受け取りて次第では別の感性で受け取ってしまう。
「そういやこけしで思い出したんだけど。マロンがこけしに拘るのってなんで?」
それがフラグというか余計なお世話だという事にまだ気付いていないトリスである。
質問に対する答えを語るという事は、ある意味では小中学生が校長先生の挨拶を聞くようなものなのである。
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