第83話 何事もまずは形から
「これは……」
「主、ここの野菜などは普通と違うようで、人間が言うと事の栄養が半端ないようですぞ。」
つまり色々新陳代謝などを起こした結果、元々早いイノブタの受胎から出産までのサイクルが更に早まったというわけである。
「それでも3匹しか生まれなかったのは1匹当たりに色々詰まった結果だと思います。」
通常イノブタの出産は5、6匹だと言う。
「我らはどちらでも構いませんぞ。」
イノ吉の言葉は、部下として生かすのも、食肉として生かすのもどちらでも良いという事であった。
「流石に家族として迎えてるイノ吉夫婦の子を、最初から食肉とするわけにはいかないよ。だからと言って態々殺めたりしなくていいからね。」
マロンはイノ吉へ釘を刺す。これは別途捕獲してきて、食肉用に牧場を作って飼育するしかないかと考えていた。
下手にテイムして意思を持たせてしまうと、どうしても情が湧いてしまい絞め辛くなるのである。
テイム系に任意で調整が可能であれば、意思を持たせずという事が出来れば楽なのにと思うマロンであった。
「生まれてきた子は家の防衛部隊や狩猟担当にはなるかもね。」
久しぶりのシンシアとのもふもふで癒しを堪能するマロン達。
「わふわふ♪わふー♪」
わしゃわしゃと両手で体毛を撫でまくる。
気持ち良いのかシンシアはお腹を出してされるがままとなっていた。
尚、二日の間にマロンは丁稚と木工職人見習いがカンストしたため、第一職種を巫女見習い、第二職種を裁縫師見習いに設定した。
また、巫女見習いでスキル祈祷を取得している。祈祷をするのは宮司だろというツッコミは運営には通じない。
巫女さんに祈られた方が萌えるだろうという、ヲタク的発想を持つ運営だからこそのスキルである。
ちっちゃい事は気にするなという運営の方針であった。
巫女系のメイン武器は扇系か箒であり、マロンの扇子は扇系に含まれる。
「日本一ィィ!」とかネタに走る事も出来る。
そして簡易的ではあるが、マロンは巫女服を既に作成していた。何事もまずは形からなのである。
裁縫師見習いにしたせいか、完成までが若干補正かかっているようであった。
巫女服の内側には普段使いのボディコニアンスーツを着用はしている。
マロンが巫女見習いを選んだのは、ヲタクの3大萌え職業といえば巫女・メイド・妹だからである。
最後は職業ではないだろと言うツッコミは随所からあるだろうが、「職業妹というのが存在するんだよ、ヲタク界隈にはなァ!」とマロンが力説していたのでトリスやアクアも渋々納得したのである。
もう少しごり押ししていけば、職業欄に姉や妹という欄が生えてきそうである。
そしてフォルテが指定した二日後となり、闘技場都市へと移動する。
3件の候補地があるとの事で、順に回って納得すれば購入する手筈となっていた。
まず最初に案内されたのは南側、アーリンとチョコバナナを食べた噴水の近くである。
地下1階地上3階建ての中々の建物である。
地下はワインセラーのような使い方も出来るし倉庫としても使用出来る、監禁や調教部屋のような使い方も出来る。
1階は店舗として利用し、2階3階は住居として使う事が出来る。
他に2階には風呂とトイレが設置されており、トイレは1階にもあった。
残念なのは倉庫に使えるような広いスペースと、工房に使えるスペースがなかった。
改装する事で2階か3階を工房や倉庫にする事は充分に可能との事だった。
「色々と惜しいね。噴水が目の前ってのは景観的にも良いんだけど。」
2件目は東エリア。冒険者ギルドや学校等があるエリアである。
こちらは地下1階地上2階建てで、敷地内に倉庫が隣接してあり専用の工房と炉もありそれぞれが繋がっていた。
同じような店舗兼住宅といった建物が連なっていた。
そのため、若干空気が悪い。煙とか異臭というよりも、色々入り混じっていると言うべきか。
3件目は北の貴族街に近いエリアである。
工房や店舗と言うよりは屋敷に近く、お店という感じはあまりしない。
地下1階地上3階建て、倉庫・工房・炉まで揃っている。
ただし、すぐ近くに貴族街があるので、あまり平民達からは好まれない立地である。
余計な悶着を避けたい平民からすれば致し方ない。
「決定力に欠けますね。空気さえ良ければ2件目の東エリアが良いのですが。」
マロンの言葉を聞いて、手を顎にかけてフォルテは悩む仕草を取っている。
「もう一つだけお買い得物件があるのですが……」
立地を聞けば、東門と南門の中間……東南であり、周りには民家が多い。
デメリットとすれば、一般的な買い物が出来る店が少ないため、生活をするにはやや不便という。
ただし、マロンが店舗を出す事により、売り物如何によっては住人達からすると助かるだろう。
そして外壁こそないものの、貴族街に近い3件目の建物と近いものがあった。
地下1階、地上3階建てで何故か3階にはバルコニーまで存在しており、隣接する敷地には蔵がある。
1階部分には奥に工房に使えるスペースがあり、蔵に繋がっていた。
トイレは各階に設置されており、風呂は2階に設置されていた。
完全なる住居兼店舗であるが、少々お高そうな建物である。
図面を見る限り不満箇所は、荒探しをしない限りは見つからないようであった。
むしろ3件目の上位バージョンという建物である。
「問題は立地場所というよりは……何代か前の所有者が自死しているという事なんですよ。」
フォルテが先程悩んだのは、この事があるためであった。
実際はお礼の一部で提供する物件なので、金銭のやり取りはないのだが人の命が失われた場所を、家族の恩人に売りつけて良いのかどうか。
この建物は近隣から幽霊屋敷のような呼ばれ方までされている。
「一度見るだけ見ても良いですかね。」
フォルテに案内されて目的の店舗候補地の前に到着。
どんよりとした雰囲気を醸し出す建物が到着する前から見えてはいたので、やっぱりという感想をマロン達は抱いていた。
草木は伸び放題、窓は割れており不法侵入しても誰にもバレそうにない。
幽霊屋敷と揶揄されているため、進んでここに足を運ぶ人間も殆どいない。
「あ……」
マロンが声を漏らす。何かに気付いたのか視線を動かしている。
「誰かいた。」
トリスは「やめてよマロン。」とマロンを盾に自分は後ろに下がっていた。
アクアは「どど、どこですか、どこにも人らしき姿はみみみ、見あたりませんよ。」
「とりあえず……」
マロンは
これも巫女服を作る際に合わせて製作していたものだ。
見習いとはいえ木工職人や裁縫職人を選択していて正解であった。
何事もまず形から……巫女見習いではあるが、宮司の真似事をしようとするマロンである。
動画サイトで大雑把にではあるが、お祓いの流れは見てきているマロン。
形から入るという事で、動画を見ていて良かったと思うマロン。
塩を撒いて大塩を振って、祈祷の真似事をしていた。
「こんな感じで良いかな?」
「良いかな?じゃないよ。」
適当な事をする方がバチが当たるのではないかと思っているのはトリスである。
マロン達が玄関扉を開けると真っ暗な部屋内が目に入って来る。
なんとなく邪気でも向かってきそうな生温い風が、建物内から吹いてきたように感じるトリス達。
「……ぇ……けぇ……て、ぃ……けぇ」
声が聞こえたような気がしてぶるぶるっとするトリスとアクア。
マロンとフォルテは警戒こそしているが、平然としている。
マロン達が進んで行くと、バタンッバタンッと何かが落下して床にぶつかっているような音が木霊していた。
進む毎に床の軋む音が恐怖を煽り、生温い風と視界が真っ暗で確保出来ない事から悪循環となる。
「ひぃっ、何か音がするゥ。」
マロンの右腕はトリスがしがみ付き、左腕はアクアがしがみ付いていた。
様々な効果音や物音が響く以上、何かがある事は間違いがない。
マロンは何かが迫って来ている事を感じ……
「めんどうだから……聖絶!」
いきなり開幕ぶっぱをかましてみたのである。
「ぷぎゃっ!」
ドンっと何かを弾き飛ばした音と声が、マロン達全員に聞こえたのである。
聞こえてきた声は、どこか幼い女の子のような気がしていたマロンであった。
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