第二章 第一回闘技大会イベント
第35話 美幼女戦死追試ムーン
浪漫は机に向かって数枚の紙と向かい合っている。
利き手である右手にはペンを、左手は紙の一部に触れている。
紙には様々な日本語が書かれている。
そして別の紙には自身の名前と、四角い空欄等がいくつも羅列していた。
浪漫はそこに書かれている日本語を意識してか無意識か、気にする様子もなく口を開く。
昔懐かしい美少女戦士のメロディに乗せて。
「ごめんね~あた~まわるくって~♪」
「夢のな~かな~ら~言~え~る♪」
「思考回路はショート寸前♪今すぐ逃げたいよ~♪」
「泣きたく~なる~よな~問題♪ カンニング出来ない~状態♪」
「だっておバカだもんどうしよう♪ハートはくだけそう♪」
「あ~か~い点数に~み~ちびか~れ~♪な~ん~ども追試なの~♪」
「生徒指導室呼び出されて♪向き合う追試の
「同じ問題なのに解けない~の 更なる追試なの♪」
「も一度追試で赤点♪ 先生~教えて答え♪」
「試験・追試・再追試も♪
「バカな事歌ってないで試験に向き合いなさい」
浪漫の前にいる女性……担任教師なのだが、先程から頬をヒクつかせながら浪漫の歌を聞いてツッコミという名の注意をしていた。
元来浪漫は成績が悪いわけではない。
ただ、学校への出席が芳しくなく、当然テストの日も出席がまばらなため試験の結果……つまりは成績をつける事が出来なかった。
学校としても0点扱いをせざるを得なく、追試という形を取らざるを得ない。
これが高校等であれば退学勧告をしてもおかしくはないのだが、中学校ではどうにかして出席させようとする。
義務教育である以上教師としても仕方がないのだが、浪漫をどうにかして普通に卒業させたかった。
先日の進路指導では進学を希望していた浪漫の意思を尊重して、教師は一定の評価をしなければならないと感じていた。
「そうは言いますけど、授業に参加していないのでわかりません。」
浪漫のその言葉は一部間違いがある。
授業をろくに受けていないというのは真実であるが、問題がわからないと言う事が間違いであった。
頭が良いというわけではないが、平均点よりは高い点数が取れるだけの頭脳は本来持ち合わせていた。
「はて、なぜあの頃の夢を今更見たのだろう。」
目が覚めた浪漫は寝汗で少し気持ちの悪い肌を気にしながら、先程までの夢を反芻するように思い返していた。
先程まで見ていた夢は中学三年の頃のものである。
浪漫は中学三年の前半までは普通に学校に通っていた。
成績も平均よりは良く、順位付けをすれば前から丁度3分の1の最後方くらいといったところだった。
40人ひとクラスで、5クラスあるので3年生は大体200人くらいである。
つまりは大体60~70番くらいが浪漫の成績だった。
しかし6月に行われた修学旅行の後から、浪漫はほあまり登校しなくなった。
担任の女性教師は何があったのか知っている、そして本人なりに浪漫と向き合ってきてもいた。
それでも浪漫が登校する事はほとんどなかった。
1学期の期末からの成績がろくにつける事が出来なくなり、別室で追試を個人的に受ける事で一定の評価をつけてるのが当時の実情だった。
浪漫が学校に行かない事に対して両親とも話はしている。
それでも出席しなかった。いや、出席出来なかった。
浪漫からしてみれば、あの場はもう学校ではない。
魔の巣窟にしか思えなかったのである。
数少ない理解者は両親であり、親友でもある小串等同じ女友達くらいのものだったが。
それでも学校に行くという選択肢はなくなっていた。
ちなみに浪漫以外にも数人の男子生徒も出席をしていない。
これらは出席をしていないのではなく、出席を許されていないである。
そのことから何があったかも、事情を知らない人でも理解が出来るだろう。
それでも中学は卒業はしているわけで、高校に通っていたからこそ今の大学生浪漫が存在するわけだが。
高校は小串と共に女子高に通っていた。
めくるめく女の花園があったわけではないが、浪漫が高校に通い卒業資格を得るには仕方のない選択肢でもあった。
浪漫は極力男性から距離を置いているようであるが、全ての男性が苦手なわけではない。
同世代の、制服を着た男性が苦手だったのである。
そのためたまに顔を出す喫茶店や、既に大学生となった今となっては守備範囲・許容範囲は広がっている。
そんな浪漫ではあるが、ニューワールドの中であんなに性的な事にあっていて平気なのだろうか。
事情を知っている小串は不安ではある。しかしその不安をぶち破る事をしょっぱなにしでかしているために聞けないでいた。
「ピンポーン♪」
インターホンが浪漫の耳に届く。来訪者のようだった。
浪漫が上着だけ羽織って玄関に赴く。インターホン越しに見えた来訪者の姿は想像通りであった。
「ちわ~〇〇急便です~♪」
受諾書にサインをして荷物を受け取る浪漫。
先日追加で注文していたあるアイテムだった。
荷物の受け渡しの時、若い男性配達員は一瞬目をぎょろっとしていたが、浪漫は気にしていない。
「これでゲーム内での再現性が格段にあがる……」
封を破るとハートマークやエロい謳い文句の掛かれた箱が出てくる。
箱から取り出したものを、子供がおもちゃをガン見するかの如く吟味し、手で触りその質感を確かめていく。
「しかし……一体どこを目指してるのかわからなくなったなぁ。コレ作ってどうしようってんだろう。」
こけしだけでも充分に卑猥な事をしている自覚のある浪漫だが、元18禁ゲーム会社が作ったゲームで一体何を目指してるのか。
既に自分でもわからなくなっていた。
少なくとも攻略には現状あまり興味がないという事くらいであろうか。
一方、配達員の会社では一定期間変な噂が出回る事になる。
『裸ワイシャツの痴女がいる家がある。』
荷物を受け取った時の浪漫はショーツ1枚にワイシャツを羽織っただけであった。
完全に完全フルダイブ型VRMMO中毒に陥っていた証でもあった。
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