元カノにお願いされたら誰とでもヤル男って噂を流されたから開き直った
斜偲泳(ななしの えい)
第1話 佐々木伊織①
「あんたさ、お願いされたら誰とでもヤル男だって聞いたんだけど、本当?」
ひと気のない通りに差し掛かると、名前を知らない同級生が突然そんな事を言ってきた。
学校を出てからずっと、不自然に後をつけられていたので、玲児は驚かなかった。
「あぁ」
振り向いて、玲児は答えた。
相手の女子の名を、玲児は知らない。分かるのは、二組の女子という事だけだ。
明るい茶髪で、ちょっとギャルっぽい。勝手なイメージだが、バスケ部にいそうな顔だ。
玲児は相手の言葉を待ったが、相手も玲児がなにか言うのを待っているようだった。
数秒待って、玲児は歩き出した。
「ちょ、待ってよ!」
「なんで」
立ち止まらず、背中越しに玲児が答える。
彼女は走って玲児の横に並んだ。
「なんでって……分かるでしょ」
「なにが」
「だーかーらー……あんたはさ、相手が誰でもお願いしたらヤラせてくれるんでしょ?」
「あぁ」
「…………」
玲児の言葉を待つように、彼女はジト目で彼を見つめた。
玲児が無視するので、わざとらしく溜息をつく。
「はぁ。言わなきゃわかんない?」
「超能力者じゃないからな」
「絶対分かってる癖に!」
「ヤリたいのは俺じゃない」
きっぱりと、玲児は言った。
「はぁ? 普通男子って、こういう状況になったら自分から尻尾振ってお願いするもんでしょ」
「お願いされたら誰とでもヤル男は普通の男子じゃないだろ」
素っ気なく、玲児は言った。
言われて相手も、そりゃそうか、と納得する。
それでも踏ん切りがつかないのか、彼女は拗ねた様に頬を膨らませて、じろじろと玲児の顔を見つめた。
玲児は無視して歩き続ける。
「あぁもう! お願いします! ヤラせて下さい! これでいい?」
「俺はお願いされたら誰とでもヤル男だ。あんたがヤリたいんなら、拒む理由はない」
「そーですか。変な奴!」
「仲良くもないただの同級生にそんな事を頼むあんただって十分変だろ」
「そーだけど。てか、そのあんたってのやめてよ」
「俺はあんたの名前を知らない」
「じゃあ聞けばいいじゃん」
「別に知りたいとも思わない」
「これからヤルのに?」
じっとりと、彼女が見つめる。
「ヤリたいのは俺じゃない」
「そーですね!」
お手上げだ! とばかりに皮肉っぽく言うと、彼女は名乗った。
「二組の
「どう呼べばいい」
「好きに呼べばいいじゃん」
「別に好きじゃない」
「……なんか傷つくなぁ。じゃあ、伊織で」
「わかった」
それっきり玲児は黙った。
伊織はわざとらしく、ちょっとあんたなにか喋りなさいよ、というオーラを出して玲児を見つめたが、玲児は完璧に無視した。
伊織はため息をついて、仕方なく自分から話しかけた。
「で、どこでヤルの?」
「伊織次第だ。どこでもいいが、俺は責任を取らないし、金も出さない。ゴムも用意しない」
「なにそれ。サイテーじゃん」
「ヤリたいのは俺じゃないし、ゴムはそっちで用意しろって事だ。俺は生じゃヤラない」
「……あっそ。やっぱやめよっかな」
「好きにしろ」
淡々と玲児は告げる。
伊織は頬を膨らませた。
「ヤルけど、ホテル代とか持ってないし。こういう時、他の子はどーしてんの?」
「俺の家でヤル事が多い」
「ぇ、マジ?」
「あぁ」
「……でもさ、家の人とか大丈夫なの?」
「仕事で帰りは遅い」
「でもさ、バレたらヤバいんじゃない?」
「伊織が気にする事じゃない」
「そーだけどさ」
また、玲児は黙った。
気まずくなって、伊織は話題を探した。
「他の子は、他にはどんな場所でヤッてんの?」
「相手の家、ホテル、ひと気のない場所、公衆トイレ、海、遊園地――」
「ちょ、ま、えぇ?」
絶句して、伊織は言った。
「……あんた、経験豊富すぎでしょ」
「俺は、お願いされたら誰とでもヤル男だ」
「いや、そーなんだけどさ。野外とかトイレとか、凄すぎでしょ」
「相手の希望だ」
「……誰の希望とかは」
「教えるわけないだろ」
「ですよね~……」
そんな話をしている内に、玲児は家についた。
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