第9話

(まずいわ・・・)


 さすがにレオナルド王子もアーサーのあまりに無礼な態度に沸々と怒りがこみ上げているようだ。なんとかして、この場を納めなければっ。


(例えば・・・・・・色仕掛け・・・・・・とか?)


 いや、ありえない。

 そんなことをしたこともないし、上手くやれる自信もない。何を馬鹿なことを考えているのだろうか、私。私も大分パニックになっているようだ。とりあえず、アーサーの指を下げさせなければいけない。私はアーサーの腕を両手で降ろさせてアーサーの頭を押さえつけながら、


「私の護衛がすいませんでしたっ」


 と、必死に謝ったが、アーサーが謝罪をしなかったので、


「アーサーっ!!」


 と怒ると、


「・・・・・・すいませんでした」


 と渋々謝った。

 

 しばらくの沈黙。そろそろ料理がくるぐらいの時間だったが、料理人のおじさんもとばっちりを受けたくないと思っているのか、厨房からこちらをこっそり覗いていた。恐る恐るレオナルド王子を見ると、まだ怒った顔をしていたが、私と目が合うと目を逸らして、何かを考えて、


「おい、そこの兵士」


 レオナルド王子はアーサーを指さして呼んだ。アーサーがゆっくりと頭を上げると、


「ミシェルに免じて許してやる・・・が、お前は外に出ていろ。不愉快だ」


 と言って、出入口を指さす。アーサーは何も言わずにゆっくりと出入口へと歩いて行った。


(やっぱり、傲慢で変な人だけど・・・悪い人では・・・・・・うーん、でも妾なんて絶対嫌っ)


 そんなことを考えているとアーサーが扉を開けていた。すると、扉の向こうに銀髪の少年がいた。


「あっ、どうも」


 歳は10歳前後だろうか。

 にもかかわらず、機嫌の悪いアーサーを前にしても物おじもせず、毅然と構えて余裕がありそうな顔をしているし、服装もそこら辺の少年というわけではなく、裕福な貴族のように制服を着こなしていた。そして、少年の後ろにはアーサーよりも一回り大きい兵士が二人いた。


「通してもらえるかな、お兄さん」


 アーサーは身体を半身にして避けると、銀髪の少年はアーサーに一瞥して私たちのテーブルへ一直線に来た。


「レオナルド王子」


 銀髪の少年は深々とレオナルド王子にお辞儀をする。


「アレクか」


 アレクと呼ばれた少年がニコッと返事をするとレオナルド王子はため息をつく。


「さっ、お城へ戻りますよ。パーティーが始まっていますから」


「パーティー?」


 私を呼び出して、そして、帰れと告げて、さらに妾にすると告げて、さらにさらにパーティー?

 私は不満を隠しつつ、レオナルド王子を見ると、レオナルド王子は私と目を合わせようとはしなかった。


「わかった・・・すぐに行く」


 レオナルド王子はそう言って立ち上がり、


「ミシェル、君は食べて、一度故郷へ帰るといい。また、手紙を送る」


 そう言って、外へと向かった。アレクは私の顔を見て、


「レオナルド王子を誑かさないでね、お姉さん」


 そう言って、アレクも王子を追いかけて店を出ていった。扉が閉まると、アーサーが私の元にやって来て、


「あいつ、ガキのくせに血の臭いがしたぜ」


 と警戒するような顔で私に告げた。

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