家柄が悪いから婚約破棄? 辺境伯の娘だから芋臭い? 私を溺愛している騎士とお父様が怒りますよ?
西東友一
第1話
「さっそぐだが、ミシェル。婚約は破棄だ、ご苦労」
サラサラした黄金色の前髪を払って見えるレオナルド王子の顔はとても満足そうで、そのおちょくる様な言い方は実に憎らしかった。レオナルド王子は前髪を払った手をそのまま扉の方へと指さすのに使う。つまりは、すぐに帰れと言うことだろう。
レオナルド王子に同調して嘲笑する大臣や貴族たち。大臣や年配の貴族は王子のご機嫌取りのような笑い方だけど、私と同じぐらいの女性の貴族はざまぁみろ、と言わんばかりに笑い、私を敵視したのがはっきりとわかり、自分たちが上だとマウントが取れたのに愉悦していた。彼女達の扇子で口元を隠していたけれど、下品さを隠せていなかったし、扇子の向こうに見えるたっぷり塗った厚化粧の下の彼女達の醜さは隠しきれていないと思った。
「まったく、芋臭い女性でしたね。レオナルド王子」
甘ったるい声でレオナルド王子に近づく赤いドレスの貴族の女性。吊り上がった目が私を睨んだ。
「賢明なご判断でしたわ」
高笑いをしながら、逆側からレオナルド王子に近づく黄色いドレスの貴族の女性。ふくよかな身体を揺らしながら、笑っていた。
「はっはっはっ」
レオナルド王子もご満悦な顔で笑う。
私は何を見せられているのだろうと、少し他人事だった。
「くそが・・・」
けれど、護衛で連れてきたアーサーは違ったようだ。拳を震わせて、ぼそっと呟いた。赤茶の前髪からちらりと見えた黒い瞳は殺気に満ち溢れていた。アーサーの震わせた右手が腰に差した剣の柄へとのびようとしているのを見て、
「いいのよ、アーサー」
私は笑顔のままアーサーに小声で囁くと、アーサーの手がピタっと止まる。
「でもよ、姫さん」
私は辺境伯の貴族の娘で、姫じゃない全くない。けれど、アーサーは騎士道というのに憧れて、騎士は姫を守るものだと言って、偏った知識で私のことを姫と呼ぶ。
「こういう場で、姫って呼ばないで・・・さぁっ、美味しい物を食べて帰りましょ。御土産も買わないと」
普段はそれでもいいけれど、本物の王子がいる前で姫呼ばわりするのは、誰に揚げ足を取られるかわからない。それに、この結婚が成立すれば、姫だったけれど、不成立になった今、従者に姫と呼ばせているとなれば、滑稽でしかない。
「そうよ、田舎の貴女にはさぞ、煌びやかな都市でしょ。おほほほほっ」
地獄耳とでも言えばいいのか、赤いドレスの女性に聞こえたらしく、大声で笑う。
「でもね、マチルダ。あんな芋臭い女、お金がないんじゃないかしら?」
黄色いドレスの女性もそれを聞いて笑う。
「あらあら、それは可哀相ね、エブリ。醜い姿を晒すだけ晒して何も買って帰れないなんて・・・。お嬢ちゃんお金を貸してあげようかしら?」
赤いドレスの女性はマチルダ、黄色いドレスの女性はエブリと言うらしい。
(うちの財政状況、しっかりと報告しているのに目を通している人はいないのかしら? それとも、あの子たちが知らないだけかしら?)
もちろん、自分の領地の人たちが大事だけれど、多くの国民が幸せになればいいと思って、私たちは王国に多額の税を納めている。けれど、この豪華絢爛な王宮に入ってから出会った貴族や王族はほとんど太った体型だったし、無駄に身に着けている宝石の数々を見て幻滅してしまった。どうやら、一部の人たちが私服を肥やして、国民に還元していない。王宮の外は治安が悪く、ひもじい格好をしている人たちを何人も見てきた。豊かさで言えば、私たちの領土で手に入ったり、見たことも無い品が並んでいたけれど、逆に私たちの領地にあるものがないし、うちの領地の方がとっても豊かなだと感じた。
「お気遣いありがとうございます。では、帰らせていただきます。失礼しました」
私は彼らと同じ空気を吸いたくないと思ったのと、アーサーが玄海だと察したので、お礼を言って一礼し、アーサーと一緒に王宮を出ていった。
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