第38話 マルチトルーパー、出撃!

 御式陸上自衛隊駐屯地、特殊災害対応第一係特別ハンガー内で蛇の怪人物ネスと魔銃を持つ女、尾上唯が激戦を繰り広げていた。

 ネスの両腕が唯へ向けて伸ばされるとすぐさま物陰に隠れ、魔力が込められた弾丸をネスへ向けて放つ。


「チィ!」


 ネスは慌ててその弾丸を避ける。すると壁に当たった弾丸が魔法陣を展開し、その壁を粉砕した。


「あんまり、施設を壊さないでほしいの」


 同じ物陰に隠れていたアクアに叱られる。クラスが同じで転校して間もないのでそんなに話したことはないが、緊急事態故に互いの距離間の測り合いはなく遠慮せずに話し合う。

 唯はアクアの肩をポンと叩いて、


「悪いな、そんな余裕がなくて、アクア、それよりこっちは決め手に欠ける。実際のところ、君たちに出撃してもらわなければならなそうだ」

「何の話なの?」


 ハンガーの開いた扉から見えるユニグリフィスとフロッリーの戦闘を唯が指さす。


「勝ってるじゃない」

「だけど戦闘が長続きしすぎだ。それに見ろ」


 今度はネスを指さす。

 彼は壊れ、炎上している唯のバイクの横で佇み、膝立ちをして全身で呼吸をしているようだった。


「疲労している。恐らく魔力が切れかけている。それはあの義骸も同じだろう。決め手がないんだ。だから、火力が出せずあの蛙を倒し切れない」


 アクアが唯の言わんとしていることを理解し頷いた。


「わかってくれたか、なら走れ!」

「うん! なの!」


 物陰から唯とアクア、同時に飛び出す。それぞれ逆方向に走り、アクアは自分のマルチトルーパー、MT3———シックルザッパーへと向かって駆ける。


「行かせるわけないでしょう!」


 すぐさまネスの腕がアクアへ向けて伸びるが、唯が魔弾を撃ち、それを弾く。


「チィ!」

「すまないがしばらく相手をしてもらうよ!」


 唯がネスに接近し、手刀からの回し蹴りを叩き込む。

 ネスは苛立ちながらも唯の攻撃をいなし、反撃をする。


「随分と苦戦してるじゃないか、魔王の眷属だろう?」

「眷属よ! だからあんたみたいな小娘に後れを取るわけにはいかないの!」


 ネスが唯と組み合うが、生身の唯と互角の時点で疲労が少なくないことは嫌でもわかる。


「シャア!」


 ネスの気合の声と共に放たれたラリアットを手でガードして受け止め、


「……なっ!」


 ネスの腕が砕け散った。ボロボロと土くれが衝撃に耐えられずはじけ飛ぶように唯のガードした手から飛び散った。


「もう、休め……! アクア!」

『ハイ、なの!』


 ハンガーに木霊するスピーカーで増幅されたアクアの声。

 MT3がすでに起動し動き始めている。

 両腕の鎌を振りかざし、ネスへと降ろそうと、


「おい、アクア‼ 基地内でそんなもの振り回すんじゃねぇ!」


 階段下に隠れていたレオが出てアクアを止めようとするが、


「そんな余裕ないの!」


 レオの声を無視し、ネスを地面ごと抉りハンガーの外へと放り投げた。


「……ぁ」


 鎌に放られ、抉られたコンクリートの破片ごと宙に浮くネス。

 その視線の先、ハンガー内でこちらに銃口を向ける女がいた。


 尾上唯だ。


 唯はネスを見据え、引き金を連続して引いた。

 銃声が何発も聞こえ、胸や腹部に衝撃が走る。そして魔法特有の発光現象が起き、ネスの胸から下は砕け散った。


「だ……う……」


 地面にバウンドして落ちたネスの体はもう少しも動くことはできず、上空の黒い月を見上げることしかできなくなっていた。


「何をやっているのよ、ルオウ……とっとと来なさいよ。もうこの街を壊せるぐらい大きくなっていってるでしょう……」


 御式町の上空で黒い月はどんどん巨大化している。


            ×   ×   ×


 ネスがハンガーからいなくなり、イフとレオは急いで自分のマルチトルーパーに駆け寄る。


『先に行くの!』

「ええ、早くあの蛙を抑えてくださいアクア!」


 すれ違う形でアクアのMT3が出撃する。

 MT1の足元には救助に来てくれた唯の姿があった。

 疲れたように佇みイフへ向けて手を振っている。


「ありがとうございます! 野中警視の知り合いの方。このお礼はいずれ!」

「それはいい、秤イフ。だが、火急の用ができてな。何か移動手段はないか? 上司に呼び出されてしまってね」


 そういう彼女はブラブラと『早く来て! 早く来て!』とやかましく男の声が流れる携帯を振る。


「表の駐車場に私のバイクがあります! それを使ってください」

「助かる。ああ、それと……」


 話しをのんびり聞く暇はないのでコックピットに乗り込みながら唯の話を聞く。


「司と仲良くしてやってくれよ。私の弟みたいなものなんだ」

「わかっていますよ!」


 唯にサムズアップをし、コックピットハッチを閉じる。

 隣のMT2スプリングスティングはすでに起動し、動き出している。

 カードキーを通し、MT1———セーブキーパーを起動させる。


「マルチトルーパー一号機、セーブキーパー‼ 出撃します!」


 MT1の頭部カメラに光が灯り、歩き始めた。

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