第6話 バイト
窓際の席に座り、仲良く談笑しながら親子丼を食べ終わるとふっと気の抜けた表情を会長が司に見せた。
「どうしたんです? 疲れてるんですか?」
眠そうに会長の瞼がふっと落ちたのだ。
「あ、ああ……随分前からやってたバイトが最近忙しくなってね。そこが人が足りなくて寝ても疲れが取れなくなってしまったんだ」
伸びをしてあくびをする会長。
バイトか。忙しいのは嫌だが、その分だけ給料も高い可能性がある。現在食費とガチャに費やす金を迅速に用意しなければいけない状況のため、この話は乗っておくべきではないのか。
「会長、実は自分……現在お金に困っておりまして」
「さっき聞いた。そういえばどうしてお金がないんだ? 食費ぐらい真澄さんが出してくれるだろう?」
「いや、それはまぁ……いろいろありまして」
「遊びに使ったな?」
う……。
会長が司の思考を見透かすようにグッと目を細めて鋭い視線を送る。
「まぁいい、困っているのか。なら丁度いい。いいバイトがある、司。君も私のバイト先で働きたまえ」
「い、いいんですか! 願ったりかなったりなんですけど、すぐに働けますかね? 食費に困っているから明日にでも欲しいんですけど!」
「ああ、大丈夫だ。君は経験者だからな。多少の融通は聞くだろう。私も協力するしな」
「あ、ありがとうございます。ん、経験者……?」
ということは新聞配達バイトか?
司の人生経験で仕事というものはそれしかしていない。だから経験というとそれしかないのだが。
朝が辛いのとお金がたまってやめたのだが、今はお金がないので我慢して早起きするしかないか。
「よろしくおねがいします!」
会長に向けて深々と頭を下げた。
「よろしい、では今日の放課後、一緒に会社に行こうか」
「放課後、今日の?」
「どうした? 何か用事があるのか?」
権五郎から放課後に工場に来るように一応言われている。だが、それを何とか穏便に断ろうと相談しようとしていたところだったし、丁度よく用事ができた。
「実は権五郎のじじいから放課後来るようにと呼びだされていまして。でもま、お金がない現状、収入を得るのが最優先。仕方がないので断りますよ」
「いや、その必要はないぞ」
「え?」
「私から言っておく。権五郎さんにはあなたの予定通りには来ることができなくなったと。私から言った方がいいだろう」
「本当ですか、何から何までありがとうございます!」
一瞬、バイトじゃなくて権五郎の呼び出しの方を優先しろと言われるかと思ったが、その心配はなかったようだ。
収入も得ることができるし、憂鬱な誘いも断ることができる。
何しろ一番最近呼びだされたことで、いつか車に妖精と星座の力が備わって最強になると唐突にむちゃくちゃな理屈を言われ、自動車免許を取るために工場の敷地内で練習させられた。さんざん練習した後に十六歳から免許が取れるのはバイクだけで車はとることができないと気が付き、非常に徒労感を味わった。
唯と知り合ってから回数と拘束時間は減ったもののこんなことをいくつになっても続けられる。司にとって、二度と、旧赤川工場。現鷲尾工場には行きたくない場所となってしまっている。
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