九十七話 画策ー1
神矢が九条とともに、生還して帰ってきた。
雪野、上原、宍戸が涙を流して無事を喜んでいた。
校舎の一階の窓から、鮫島、小山、田川の三人は、それを見ていて、不愉快極まりない気分になっていた。
洞窟が崩れて神矢一人が生き埋めになったと聞いて、喜んでいたのに。
九条も一人で神矢を探しに行って、一日帰って来なかったから、猛獣とかにやられてくたばったと思ったのに。
そうなれば、あとは面倒なのは矢吹だけだから、上手く目を盗んで色々とやりたいことも出来たのに。
今はもう昼になって、神矢には食事が振舞われ、数人が集まって話を聞きに行ってる状態だ。
その間、鮫島たちは男子たちの洗濯物を洗って干しているところだった。
洗濯物は外で全て手洗いだ。男子だけの分とはいえ、人数分洗うのはそれなりの時間と手間がかかる。洗剤はとっくの前に切らしていて、今使っているのは、科学部がジャングルの植物から作ったという天然の石鹸を使用していた。
面白いくらいに汚れが落ちて洗濯物は綺麗サッパリ着心地抜群になるのだが、鮫島の心はどす黒く汚れていて、何もかもが面白くなかった。
「あー! くそ! 何で俺たちが男どものパンツ洗わなきゃならねーんだよ! やってられるかよ!」小山が誰かの白いブリーフを壁に投げつけた。
「……せめて、女子の下着も洗えれば逆に天国だったのに。そういや、一時期その下着どころか女にも興味なくしていたけど、アレは何だったんだ?」田川の呟きに、鮫島は怒鳴った。
「んなことはどうでもいいんだよ! 神矢の野郎……生きてやがった。相変わらず悪運が強い野郎だ! 全く忌々しいツだ」
「……雪野たちを慰めて心の隙間に入り込む作戦はボツになったな」と、ため息をついて、田川。
「……宍戸のあの小さそうな胸が俺のものになると思ったのに」と、悔しそうに小山。
「くそくそくそくそ! 神矢のヤツ! どうにかしてアイツを排除しないと!」
「無理だろ。一年の黒河ってヤツが言いふらしていただろ? あの林先輩が足元にも及ばなかったってよ」
「矢吹先輩も神矢の事を認めているしな。俺たちじゃどうしようもねーよ」
二人は既に諦めているようだった。
「俺は諦めねーぞ! ……何かないか? アイツを貶める何か良い方法……」
「つーかさ、女子三人ともが神矢のものになるわけねーんだからさ、必ず二人は傷心モードに突入するわけだし、そこを突けば問題ないんじゃないか?」
「おお、田川さすがだな。まだ可能性はあるってことか」
鮫島は二人の意見に、確かにそうだな、と少しだけ溜飲が下がった。雪野がフラれてくれれば、自分が彼女の傷ついた心の絆創膏となり、傷が癒えるまで寄り添い、そして二人は……。
一旦妄想を振り払い、鮫島は意識を現実に戻した。
「だが、どっちにしろ神矢の存在は邪魔だ。アイツがいなくなれば、三人ともが幸せになれる。違うか?」
田川と小山は頷いた。
「それはそうなんだが、かと言ってどうするんだよ?」
「だからそれを考えてるんだろうが。田川、お前俺らよりは成績良いだろうが。何か良い方法ねーのかよ」
「……神矢を貶める方法ねぇ」田川が顎に手を添えて考えた。
チラリと洗濯物を見る。
「……いやぁ、神矢の着替えの服を切り刻むとかくらいしか思いつかねーな」
「まあ、俺たちのストレス解消にはなりそうだな」小山が悪い笑みを浮かべた。
「他には?」鮫島は頷きながら、田川にさらに意見を促した。
「後は……冤罪みたいのを押し付けるとか?」
「ほほう、面白そうだ。例えば?」
「直ぐに思いつかねーよ。てか、お前も聞いてばかりじゃなくて、自分でも考えろ」
鮫島は舌打ちしつつも、何かないか考える。
冤罪と言えばなんだ? 殺人……はさすがにやり過ぎだ。要は、神矢の評判が地に下がり、雪野たちから軽蔑されるような事になればそれでいいのだ。
田川がまた洗濯物を見ながら言った。
「……下着ドロとか?」
「それだ」鮫島は指をパチンと鳴らした。実際は鳴らずにスカした音だったが。
「よし。そうとなったら、お前ら誰か女子の下着盗んで来い。そして、それを神矢のリュックに忍ばせるんだ」
「リュックじゃなくても、ここに洗濯した神矢のズボンがあるだろうが。ポケットに入れとけばいいんだよ」
「おお、なるほど。さすがだな、田川参謀長」鮫島は感心して拍手した。
「誰が参謀長だ! つーか、女子の下着盗むのを俺らにやらそうとすんな! 見つかったら俺らが変態のレッテル貼られるだろうが!」
鮫島は舌打ちして、「しゃーねーな」と渋々頷く。
「それじゃあ三人で協力して、女子の下着を盗むぞ。いいかお前ら、ぬかるんじゃねーぞ」
二人はやや疲れた息を吐き出して、「……こいつの友だち止めようかな」と呟いたが、鮫島の耳には届かなかった。
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