四十話 戦いの後ー2
食事を終えて、宮木と櫛谷が仲良さげに話しながら部屋から出て行き、雪野と上原も、校舎内を見て回るとのことで出て行った。九条も着替えついでに、生徒たちや教師に指示をする為に出て行った。
それを見送った後で、早瀬が神矢と矢吹を見た。
「……それにしてもあなたたち、傷だらけじゃないの。無茶しちゃダメでしょう」
その隣で、鮎川も困り顔になっていた。
「まったく、矢吹くんはともかく神矢くんがこんな無茶する生徒とは夢にも思わなかったわ」
「おいおい、俺ならともかくって何だよ」矢吹が眉尻を下げて抗議したが、自分で「まあ自覚してるけどよ」と認めた。
「……すみません」神矢は頭を下げて鮎川に謝った。
「……まあ、君たちのおかげで校舎が取り戻せたし、人質になっていた生徒たちも助かったわけだし、怒るに怒れないけど、あんまり心配かけないでよ。雪野さんも上原さんも凄く心配してたんだから」
神矢はどう答えていいかわからず黙ったままでいた。
「モテモテじゃないか、神矢。羨ましい限りだな」
隣のベッドで矢吹が言った。さっきまで寝転んでいたが、今はベッドに腰掛けてこちらを見ている。
「何言ってるの。矢吹君も無茶ばかりしないでよ」
「この状況で無茶をするなっていうのが無理だろ? ここじゃ、ある程度のことは危険を冒してでもしないと生きていけないぜ」
「……まあ、そりゃそうだけど」
「ところで、神矢」矢吹が話しかけてきた。「あの洞窟へ行かないか?」
鮎川が驚いて反対した。
「そんな怪我で何しようっていうのよ」
「……先生、落ち着いて。矢吹さんは、怪我をしているからこそあの洞窟で休もうって言ってるんです。そうですよね?」
矢吹は頷いた。
「どう言う事?」怪訝な顔になる早瀬。
「あ、そういや回復が速いって前に話してたわね」
「回復が速い? 何を言ってるの?」
訝しげな顔の早瀬に鮎川は説明したが、到底信じられないといった様子だった。
「もちろん、怪我人だけで行こうってわけじゃない。何人かもついてきてもらう。包帯を代えてくれる人間も必要だしな。それに、あの洞窟は俺たちのもう一つの拠点なんだ。そう簡単に手放すわけにもいかない。常に誰かがあそこに陣取っていたほうがいい」
神矢は頷いた。
「確かにそうですね。じゃあ、いったんはまた校舎組と洞窟組とで別れて、また何日かすれば交代しましょうか。実際、あの洞窟はかなり過ごしやすい。外敵にさえ気をつければですけど」
「よし。それじゃあ、みんなを集めて話そう。神矢、お前はここでもう少し休んでいろ」
「いやいや、俺より矢吹さんの方が重症でしょう」
神矢が言って、
「そうよ。あなたは絶対安静!」
と、早瀬が矢吹を睨みつけた。
「……だが、こういったことは早めに伝えないと」
「だったら、九条さんに伝えてもらえばいいんですよ。今のあの人の言うことなら、みんなも聞いてくれるでしょうし」
矢吹は少し唸って考えていたが、「まあ、それもそうだな」と納得してくれたようだ。
「そういうわけだ鮎川先生。行って九条に話があると伝えてくれ」
「仕方ないわね。でもその前に、九条さん、でしょう? ちゃんと目上の人には敬語を使いなさい」
矢吹は「へいへい」と、軽く返事をした。
「んもう」と言って、鮎川は保健室を出て行った。
程なくして、鮎川は九条を連れて戻ってきた。
「話は聞いたよ。校舎組と洞窟組とでまた別れるって?」
「ああ。メンバーは俺の独断と偏見で決めるがいいな?」
神矢たちは頷いた。
今回の洞窟メンバーは、怪我人の神矢と矢吹、雪野、上原、宍戸。宮木と櫛谷。それと早瀬。後は一年、二年、三年をそれぞれ半々に分けた人数だ。
今回、九条、鮎川は校舎組になった。九条も生徒たちの信頼を得ているし、力も申し分ない。彼は自信がないようだったが、渋々承諾したらしい。
ちなみに鮫島、兵藤は神矢と顔を合わせづらいらしく校舎組である。
こうして、神矢たちは療養のため洞窟へと戻る事にしたのだった。
浦賀の支配は終わった。
浦賀の支配により、死傷者が多く出た。
だが、慣れ親しんだ校舎を取り返せた事に、生き残った者たちは涙を流して喜んだ。
かと言って、この地底世界で死の恐怖に怯えて暮らす日々は変わらない。地上への手がかりは未だ見つかっていない。救助の見込みもない。
それでも、一つの困難を乗り越えた事は、生き残った者たちの糧となっただろう。
地底生活十六日目。
地上世界に戻る目処は未だ何も立っていない。
第一部 了
第二部に続く
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