第27話



 マードゥン様は俺がその場を後にすると、少し気に食わなさそうな表情を浮かべていた。


(僕のあざとさに騙されない奴か。つまんないの。女にも男にも僕のあざとさって通用すると思ってたけど……)


 マードゥン様がそんな事を思っていると、ルウ様が元々細い目を更に細くさせてニコニコとしながら口を開いた。


「いや~まさか、2人が知り合いだったなんて。なんだか嬉しいな~」


「……君も、そういえば通用しない1人だったね。この天然」


「え?何が?」


 ルウ様がそう訊ねると、パッと表情を変えてニコッと微笑んだ。


「うーうん、何でもなぁい」


「ん?そう?」


「あ、僕お水取りに言ってくるね」


「うん。分かった」


 ルウ様はそう言ってにこやかに微笑んだ。

 マードゥン様は立ち上がりその場から離れた。そして薄笑いを浮かべて「ちょろい奴」と小さく呟いた。




 ************




 俺はおふたりを迎えに海鮮丼コーナーまでやってきた。


「あ、ノア~!」


「あ、お嬢さm……うっ!生臭!!」


「ちょ、ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでよ!私が生臭いみたいじゃない!」


「うぅ……じづれいいだじまじだ」


「鼻を摘まみながら話さないでちょうだい」


「むぢゃ言わないでぐだざいよ」


 俺が鼻を摘まみながらそう言うと、後ろからもなんだか生臭さが近寄ってきた。


「あ、マーカス様!」


「ヴ!!だ、ダブルで……」


 俺は両手で鼻を抑えた。


「おぶだりども、ぼ、ぼんどうによぐぞんなげでものだべれまずね」


「え、え?なんて?」


 フローレス嬢は思わず聞き返した。

 すると、レイラ様はため息を漏らしながら口を開いた。


「おふたりとも、ほ、本当によくそんなゲテモノ食べれますね、でしょ?まったく、失礼な従者ね」


「じょーがないじゃないでずが!」


「よく分かったね、レイラ。というかごめんなさい、マーカス様。前回私達が食べた時にもう慣れたのかと……」


「あのどぎばどぢゅうがらまびじでだんでず」


「あのときは途中から麻痺してたんですって」


「あ~なるほど」


 あー察し。みたいな表情浮かべないで下さいよ、フローレス嬢。しかし、仕方ない。こうなったら……


désodoriserデゾドリゼィ


 俺がそう魔法を呟くと匂いがすぅとなくなった。そう、消臭の魔法だ。俺は鼻から手を離してふぅと息を吸った。あぁ!臭くない!


「ふぅ、生き返った~」


「貴方、もしかして消臭の魔法を使ったの?」


 レイラ様は少し呆れた表情で訊ねた。俺は「勿論!」と爽やかな笑顔で答えた。


「マーカス様、そんな魔法も使えるのですね!すごいです……フムフム、そんな情報ゲームではなかったので新しい発見です」


「アリス、ヒロインがそんな真剣な顔で分析しなくていいから」


「なんたって高位魔道師ですからね!」


「ノア、貴方は黙ってなさい」


「はいはい。あ!おふたりとも!そんな事よりですね、席が見つかったのですが少々問題がありまして」


「うん?どうかしたの?」


「実はかくかくしかじか……」


 俺はおふたりに事情を説明し始めた。




「「……え!!リオ・デレス・マードゥンとルウ様が一緒!?」」


 説明し終わると、おふたりは同時に声を揃えて驚いた。


「えぇ。まあ、そのおふたりがご一緒になるので一応消臭魔法を掛けさせて頂きました」


 まあ、また前みたいな思いして食べたくないからこの魔法覚えたんだけど……それは黙っておこう。


「そ、そうね。そのおふたりが一緒なら掛けておいた方がいいのかも。ありがとう、ノア」


「いいえ、とんでもございません。お嬢様」


「うぅ、ルウ様もいるなんて!一緒に食べたい……でもリオ……いえ、マードゥン様がいるなんて!はっ!でもでも私、ルウ様と昼食を共にできるだなんて初めてかも!!どうしよう!緊張する!!」


「アリス、お、落ち着いて」


「そ、そうだね。スーハースーハースーハー」


 フローレス嬢はレイラ様に宥められながら、深呼吸をして落ち着きを取り戻した。


「失礼しました、ハハ」


「大丈夫よ。それにしてもこれでついに攻略対象、全員と出会うわね」


「はい、マードゥン様はどのような方なのですか?」


「リオ・デレス・マードゥンは一言で言えば……そうね、癒しかわいい子犬系男子枠よ」


「……はい?」


 俺は思わず聞き返した。なんだか無理やり情報を盛り込んだ言い方だな。


「まぁ、私はリオルートはプレイしてないからよく知らないんだけど」


 なんかまた前世の言葉が出てきたな。というか、よく知らないんかい。俺がそんな事を思っていると、様子を察したフローレス嬢が口を開いた。


「えっと、まあ、一言でいえばそんな感じで合ってるよ。可愛い感じの美少年だよね。でも彼、確か計算高い腹黒設定なの」


「なるほど。じゃあ、私と同類ですね」


「うん。そうね、確かに」


 すかさずレイラ様は俺の言葉に同意した。


「……お嬢様?そこは否定するところですよ?」


「ん?どうして?」


 レイラ様は満面の笑みで聞き返した。ちょっとー?


「ま、まぁまぁ!とにかく!あの可愛くて癒し系な言動は全部計算なんだから少し気を付けていこう!」


「そうですね。では、先に席に向かいましょう。私は後で食事を頼んできますので」


「あ、ノアのもさっき頼んでおいたわよ」


「え」


「貴方、どうせ『Aランク牛ステーキ定食』でしょ?先に頼んでおいたからそろそろ出来上がるんじゃないかしら。取りに行ってから向かいましょ?」


 レイラ様はそう言って歩き出した。フローレス嬢もニコニコしながら「行きましょ」と言った。

 俺ははぁ~と大きなため息を漏らして右手で口を覆った。もぉ、そういうとこほんと好き。うちのお嬢様。


 そう思いながらスゥと一度深呼吸をしてから、レイラ様の後を追った。


「お、嬢、様♪ありがとうございます!もーさすがです!一生ついていきます」


「なによ、もー調子のいい奴ね。プっ、ふふ」


 レイラ様は口元を抑えながら思わず笑い出した。

 そうして俺達は食事を取りに向かった。







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