俺のお嬢様はおとめげーむ?の『悪役令嬢』らしいです

杏音-an-

始まりは

プロローグ


『イケメン学園☆貴方は誰と恋をする?』


 ♪~~♪♪~~~♪~


 一人の女子高生はスマホ画面を凝視していた。イヤホンからは『乙女ゲーム』の音楽が流れ出してる。


 女子高生は帰りのバスがまだ来ない為、バス停の椅子に座りながら、最近友達とハマっている『乙女ゲーム』で時間を潰していた。


(皇太子俺様は昨日攻略しちゃったから次はどうしようかな)


 スマホを操作していくと、『ルウ』という茶髪の優しげな雰囲気の男が出てきた。ルウは攻略対象ではなく、主人公のヒロインにゲームの説明をしてくれたり、困ったときにヒントを出してくれたりなど。手助けをしてくれるお助けキャラみたいな人物、まあ、モブだ。


『さあ、君と恋をする相手を選んでね』


 画面の中でルウが右手を広げてそう言った。

 すると、画面が学園の教室の背景へと変わり、攻略対象を選ぶシーンへ移った。一番最初に画面に現れたのは勿論、俺様皇太子の「ジェイコブ・ルイ・アレクサンダー」だ。


『ジェイコブだ。勿論、お前は俺様と恋をするだろ?』


 そう言って、俺様皇太子は右手を前に差し出した。少し切目で濃い藍色の瞳と、その瞳とは対象的に情熱的な真っ赤な髪色をした、陽キャのイケメン男子だ。


「イケメンなんだけどねぇ。まぁ、アンタはもう攻略したからッと……」


 女子高生はそう言いながら、画面の「次」というボタンをタップした。すると、「マーシュ・イビル・シュバリィー」というイケメンが現れた。濃い緑の長髪に眼鏡をかけたイケメンで、いかにも秀才といった雰囲気だ。


『マーシュだ。君は俺と恋をしてみるか?』


 画面越しのマーシュはそう言いながら、右手を差し出した。


(秀才マーシュ……あんたも攻略済みなのよね)


 女子高生は再び「次」というボタンをタップした。マーシュの次に現れたのは、俺様皇太子の護衛騎士を務める「ジャック・ラオネル」だった。短髪でマッチョの筋肉強面こわもてイケメン。ここまでの攻略対象達は、ヒロインの1つ年上の先輩という設定だ。


『ジャックだ……俺と恋をしてみないか』


(うーん。まだ攻略してないけど、次は同い年をやってみたいのよね~次!)


 画面をタップして、次に現れたのは同級生という設定の「リオ・マードゥン」だった。少し癖っ毛で柔らかそうな色素薄めな金髪に、ぱっちりとした金色の瞳をした癒し系のイケメンだ。


『リオだよ。僕と恋、してみない?』


(ふんふん。これはこれでよきかなよきかな……次が最後の5人目……って事は、もしかしてこの間那奈が攻略したって言っていたイケメンか)


 那奈はこの女子高生と一緒に乙女ゲームにハマり出し、最近オタク化し始めた友達であった。女子高生はまた「次」をタップした。すると「ノア・マーカス」というイケメンが現れた。さらさらした綺麗な黒い髪と、黒い瞳をしたどこか少し影のあるイケメンだった。


「わ……超、好み……」


 そう思わず呟いてしまったとき、女子高生はふと周りがザワついている事に気がついた。何かあったのかと、右耳のイヤホンを外しながら顔を上げた。すると、左車線からトラックがこっちに向かって突っ込んできていた。運転手に目をやるとうつらうつらと居眠りをしているようだった。


(嘘、やばいっ……)


 ぱっと立ってその場を離れようとしたが、あまりに突然の衝撃的な場面に足がすくんでしまって、すぐには立てなかった。


「……っ危ない!!」


 そう誰かが叫んだ瞬間、トラックはそのまま女子高生が座っていたバス停のベンチに突っ込んでいった。そして、女子高生の赤黒い血がビチャっと地面に飛び散る。


(……嘘、でしょ……これ死ぬやつじゃん)


 トラックに跳ねられ、地面へと叩きつけられた女子高生は、そんな風にぼーと考えていた。すると、ぼんやりと霞んで見える視界の中で、自分が持っていた携帯の画面が見えた。ブック式カバーだったおかげか、奇跡的にもこちらから画面が見えるようになっている。

 画面には超絶好みな先程のイケメンが、こちらを向いて微笑みながら右手を差し出していた。


(……あぁ、死ぬ、前に……「ノア」の攻略、した、か……った、なぁ……)


 そう思いながら、女子高生は重い瞼をゆっくりと閉じた。そして、彼女の意識はそこで途切れた。



『ノアです。俺と……恋してみませんか』



 ******



「ん…………」


 彼女はゆっくりと瞼を開いた。

 瞼を開くと視界がまだぼんやりとしていて、なにか白い布のようなもので囲われているのがなんとなく見えた。


「ん……ここ、どこ……病院……?」


 そう言いながら少し痛む体を動かし、両目を擦った。


(私、確かトラックに跳ねられたよね……あ、スマホ!)


「いたっ」


 急に身体を起こそうしたせいか、全身に痛みが走った。痛みが走らぬよう、今度はゆっくりと身体を動かしながら辺りを見渡した。


「……なにこれ、まるでお姫様とかが住むような部屋じゃん」


 そう言いながら、ふかふかのベッドから出ようとすると、ある違和感に気づく。


(あれ……なんか身体、変? ……なんでだろう、身体が小さい気が……)


 なんだか嫌な予感する。再び彼女が周りをキョロキョロ見渡すと、大きな鏡を発見した。状況が掴めないまま、彼女はそのまま鏡へと近づいてみた。


「う、嘘でしょ!!?」


 は目の前の大きな鏡を、自分の小さな両手で掴んだ。何故なら、鏡に映っていた自分の姿が、4・5歳くらいの幼い少女だったからだ。長く綺麗な金髪に、アクアマリンのようにキラキラと透き通った薄い水色の瞳をした少女の姿だった。


「これ、私なの? え、ていうかちょっと待って……この姿は、もしかして『イケメン学園☆』の悪役令嬢じゃない!?」


 そう、女子高生なんと『乙女ゲーム』に出てくる悪役令嬢『レイラ・エミリ・グロブナー』に転生を果たしたのであった。



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