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しょうもない事件に遭遇する。これは平見ムサジの特異体質だ。秋の文化祭でも、当然のように事件は起こった。
平見の率いるミステリ研では、日頃の活動を小冊子にして無料配布することになっていた。メンバーそれぞれがお気に入りのミステリ作品をレビューするという、なんのひねりもない内容だ。とはいえ、メンバー四人それぞれが精魂こめて執筆し、ようやく完成した。吉田も夏合宿を経て、本格的に活動に加わるようになっていた。
ありきたりだけど、宝物のような冊子。その冊子が……文化祭当日になって突然消えた。部室に置いていたはずなのに。
しょうもない事件が起こると、決まってある人物がつむじ風のように現れる。
その女の名は――
「犯人はこのわたし! ミス・テリアスですわっ!」
「ああああもう、なんなんだよおまえは! なぜ俺の行く先々に現れるんだ!? 目に入ったゴミみたいに邪魔な奴だな!」
平見はくしゃくしゃと頭をかいた。あの夏の一件以来、ことあるごとにミス・テリアスは平見の前に現れるようになっていた。そして決まって言うこのセリフ。
もちろん、このミス・テリアスなる人物が事件の犯人であることは一度たりともなかった。この先もないだろう。
彼女は、事件が起こった後に急いで現場に現れるからだ。過去に遡る能力でもなければ、犯人になれるわけがない。
「俺の行く先々で現れて、起こった事件の犯人だと名乗って。謎すぎる。いったいなにが目的なんだ?」
「平見のストーカーなんひゃない?」
隣でもぐもぐと焼きそばを頬張りながら吉田が言う。
「ストーカーならもっとわかりやすくしろよ!」
けっきょく部活動冊子消失事件は、急に自分の文章が恥ずかしくなった部員・鈴木が教室の自分のロッカーに隠していたというオチがついた。事件は無事に解決し、昼から冊子の配布も滞りなく行った。
しかし、いつものように、ミス・テリアスはいつのまにか視界からいなくなっていた。
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