天禳の∴ジィオコ:=アスールド
gaction9969
Gioco-01:唐突では(あるいは、Oh……My異世界)
「……ッ!!」
失恋直後に感じる、鳩尾あたりに来る「絞られる」ような圧を、何と名付けたらよいのだろう……
そんな全く考える必要のない事柄でも、しぼみ切った脳内に巡らせていないと赤信号の五叉路交差点に125ccの法定速度60キロを超えたスピードで突っ込んでいってしまいそうであって。いかんあかん。
十二月二十四日。言わずと知れた、あの、あれの日であり。とは言え今までの僕には年の離れた妹のために用意されたケーキを夕食後に家族と共に食す以外の特別なコトは無く、それ以降は誰が気にするわけでもないのにいつもはどうでもいいことを垂れ呟いているSNS周りでもリア充感を醸すためだけに無駄な沈黙を貫きオフラインのゲームに興ずるというどうとでも無い一日であったのだけれど。
それでも今年は生まれて初めてデートなるものに居酒屋バイト先の地味めのコを誘うことは誘えたのだけれど十九時から予約していた新宿三丁目の創作イタリアンの店に行く前にふたりでカフェにて時間をつぶしていたところで親密に話すきっかけとなったとあるハクスラ系MMORPGの話題で不必要に盛り上がり過ぎて白熱した議論で論破を無駄に重ねていたらいきなりイキられて帰られた。
「RでもVRでも二度とコンタクトを取りに来ないでください」という温度のない数十文字の後は本当に音信不通となってしまい、キャンセルの電話を店舗側も僕側もやけに事務的に交わした後は独り身を嘲笑うかのようにビルの合間を縫ってふわり舞い始めた粉雪に寒々しさを否応増されながらも片道四百四十円の電車賃をけちるために練馬くんだりから転がして来た原付に再び跨り新目白通りを固まった顔面と前頭葉にて無言の帰宅を果たさんと寒風の中を合皮全開ジャケットの防寒性能の無さを痛感しながら丸まった背中にて走行中のその、
刹那、だった……
「!!」
下り三車線の正にの真ん中に、やせ細った黒猫がいきなり現れた、ように見えた。ので慌てて最大限左に寄って躱そうとしたものの、こちらに気づいた猫も回避行動を取ろうとしたのかそちらに寄ってきて。
「……ッ!!」
さらに慌てて右に切ったら今度はまた猫も右へ。さらにさらに左、右、と合ってはいけない息を合わせた挙動が蛇行の軌道を描いたと思った時には、
やっちまった、といやな感触が来るのを身構えた僕だったけど、次の瞬間にはいきなり目の前が白い光に包まれていて。
何でなん感をその場に置き去りにするかのように、僕の意識もさくりとそこで断ち切られて霧散していったわけで。
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