第12話 争奪戦と風物詩(1)
コンビニから戻ると、アイスは夏の熱気にやられて半分溶けかけていたが、エアコンの効いた室内で食べるアイスは格別だった。
「うまぁあはあぁ~……!」
と、俺が選んだ大福もちのアイスを頬張るケモミミ幼女のコンは、ニコニコと笑顔で樹や花奈の分…はたまた、母さんやばあちゃんの分のアイスも一口ずつ貰い、その度に大げさなリアクションで喜んでいた。
その一口は殆ど一個分と大差ない程の大きさだったのは言うまでもない。
「のうのう!どれもうまいのう!」
蒸し暑かったので俺はソーダ味の棒付きかき氷のアイスを選んだのだが、そちらをジーっと見つめて涎を垂らし、俺の顔色を窺っているコンは餌を前にした子犬モードで尻尾と耳をフリフリ、ぴこぴこと動かしていた。
「のう…四季よ!そのぅ…そっちのも…うまそうじゃのぅ?いや、さぞうまいに違いないっ…!」
と、留まることを知らない食欲を発揮し、ついに俺の眼前一メートル程の所にまでやってきた。
「おい、さっき自分の分も食ったろ…それに他四人分くらいペロッと平らげたのは誰だ?」
図星を突かれて一瞬しかめっ面でのけぞるコン。
しかし、すぐに気を取り直したのか、それとも単純に気にしていないのかコンは更に距離を縮めると尻尾をゆらゆらと揺らしてにじり寄ってきた。
「うぐっ!し、しかし!ほら、あれじゃ!この、あいすくりーむ?というやつが強かに美味しくて…そのぅ…ああもう!四の五の言わずにそれもよこさぬか~!」
と、勢いよく飛びついてくるケモミミ幼女。
「よっと!危ないじゃねーか!何しやがる!」
それを華麗に躱すと、しゅたっと地面に着地して方向転換。
そして再びこちらに飛び掛かってくる。
「ぐぬぬ…なかなか手ごわいやつじゃ…その、青いあいすくりーむもよこすのじゃー!」
と、八重歯をむき出しにして俺を壁の方へと追い詰めるとじりじりと距離を詰めるコン。
全くこいつときたら…。
まあ、この程度で喜んでくれるなら安い物だ。
たかだかアイス如きでムキになるのも大人げないと、何とも冷めてしまった…。
俺は両手を上に上げて降参のポーズを取る。
「はぁ…ほら、急いで食うと頭キーンてなるから、ゆっくり食うんだぞ…」
と、袋を開けてまだ一口しか食べていなかったアイスをコンに渡す。
「むふふふ…初めからそうしておれば良いものを…いっただっきまーす!あぐっ!」
と、俺からそれを受け取るとすぐに口の中へ放り込んでしまった。
と、思う程今日だけで相当の食糧を食べているはずだ。
何とも恐ろしい。
この、大食い幼女め!
半ば奪い取る様な形で俺から勝ち取ったソーダ味のアイスを「あぐっ、あぐっ!」と、勢いよく食べ進めていくコン。
途中溶けて雫が垂れていたが、そこも丁寧に舌を這わせて嘗めとっており、結局最後の一口まで全部持って行かれてしまったのだった。
「ん~…うまぁ!なんじゃこれー頭がキーンってするぞ!…じゃが、うまいのじゃあ!」
言わんこっちゃない。
だからゆっくり食べろと言ったのに、結局その注意も無駄だったみたいだ。
この際奪われたアイスはもう諦めてしまおう。
何事にも興味を持って、食い付く姿勢は素晴らしいのだが、こうも食い意地が張っていると、この小さい体のどこに吸い込まれているのかと疑問に思ってしまう。
まあ見た目は幼女とはいえ、年齢的には八十超えてるとしたら、もはやババアなのだが、身体的にはまだ九歳か十歳くらいの身長だ。
遅れてきた成長期でエネルギーが必要なんだな…きっとそうに違いない。
と、何とも感慨深くなってしまった俺は先ほど買ってきた”大連打三十連発パーフェクトビッグバンセット”と書かれたパッケージを取り出す。
七色の鮮やかなフォントで書かれたそれは、迫力を出す為かパッケージにナイアガラの滝の様な枝垂れ花火や、目玉であろう手持ちの三十連発花火なんかがデカデカと描かれていた。
「母さん、バケツあったっけ?」
と、母さんに尋ねると「ええ、外の倉庫にあったはずよ。取ってくるわね」と、バケツを取りに行ってくれた。
樹と花奈はばあちゃんと一緒に座ってテレビを見ていた。
丁度夜のニュースが流れていて、それを見ながら雑談している様子だ。
ニュースでは基本的に全国区のニュースが流れていて、高速道路で事故だとか、空き巣が逮捕されただとか、そういうニュースばかり流れていた。
ローカルニュースに切り替わっても、オフィス街の交差点で交通事故があったとか、飛び降り自殺があったとか、コンビニで強盗があったとか、そういう暗いニュースばかりだった。
「全く、物騒なもんだねえ」
と、ばあちゃんがローカルニュースに切り替わったタイミングでうんざりした感じでそう呟いた。
「はぁ…世の中どうなってんだい。全く、あたしがその場に居たら犯人とっ捕まえてやるのにねぇ…」
全く世の中物騒だな…と、ばあちゃんと同意見なのだが、それ以上にそっちかよ!
と、心の中でツッコミを入れつつ、ライターと蝋燭を探して戸棚を開ける。
「お、あった…」
久々に帰ってきたが、勝手知ったる実家である。
多少の配置換えはあったものの、昔から置いてある物の場所は変わっていなかった。
「ばあちゃん、これ借りるけどいいよな?」
そう言ってターボライターと、蝋燭を掲げて見せると、ばあちゃんは視線だけ動かしてそれを確認すると、右手を上げて手首を二、三回サッサと払う様に動かして「持って行きな」と、ジェスチャーで答えた。
「さんきゅー」
と、俺も短く返事をすると、さっそく準備に取り掛かる。
蝋燭受けとして、近くにあったアルミで出来たキャンプやレジャーで使う様な皿を一枚持って玄関へと向かって行く。
玄関先では、丁度母さんがバケツを持って来てくれていてすぐに準備に取り掛かれた。
「これでよかったかしら?」
と、青色の深めのバケツを準備してくれた母さんに感謝。
「ありがとう、助かる」
それも受け取り、両手いっぱいに荷物を抱えてしまって、歩き辛かったが、一度荷物を俺の車のボンネットに置き、バケツだけ持って外の手洗い場の蛇口から水を汲む。
半分ほど水を溜めて、それを持って荷物の所へ戻ると、母さんが声を掛けてきた。
「ふふふ…懐かしいわね。昔は良くこうして、近くの子達も一緒に集まって花火…したりしてたっけ…」
と、ボンネットの上に置きっぱなしにしていた”大連打三十連パーフェクトビッグバンセット”を手に取ると、指でなぞる様にツーと滑らせていく。
「ああ、そうだね」
と、短く返事を返すとバケツを設置して、蝋燭とライターとアルミ皿をその横に置く。
ジュボ!と、ライターは音を立てて、強力な炎の柱を出現させると、それを蝋燭の先に近づける。
チリチリと蝋の焦げる匂いと、細く黒い色の一筋の煙が立ち込めると、橙色の優しい明かりが蝋燭に灯った。
暫く蝋燭を燃焼させて、溶け落ちる蝋を集める。
アルミ皿の上に五百円玉程の大きさの蝋が溜まったら、そこへ蝋燭を立てる。
まだ熱を持っている蝋はぐにゅりとした感触がして、中央を窪ませしっかりと蝋燭を固定することが出来た。
さて、これで準備は完了だな。
そう思った頃にリビングにて相変わらず騒いでいる当の本人達を呼ぶ。
「おーい、準備できたぞー?」
そう声を掛けると、第一声でリビングの方から「なんじゃ!なんじゃ!?」と、コンが叫ぶ。
その後タタタタと、廊下を掛ける音がこちらに近づき、玄関先からは見知ったケモミミと尻尾が顔を出していた。
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