扉を開けたら夫が執事に貫かれ啼いていた。

江戸川ばた散歩

ある夜の出来事から

 夜中、ふと奇妙な物音がしたので起きてしまった。

 夜番をしていたメイドの一人に私は声を掛けた。


「ハリエット、ちょっと」

「奥様、どう致しましたか?」

「旦那様のお部屋の方で、妙な音がするの。ちょっと見に行きたいのだけど、ついてきてくれないかしら……」

「そういうことでしたら、ターナカさんに……」


 彼女は執事の名を出す。

 私は首を横に振る。


「先にあっちに行ったのに、居ないのよ。だから怖いことなのに貴女じゃどうかと思ったんだけど……」

「そんなことありません、奥様のためでしたら!」


 びょん、とハリエットは手にしていた縫い物をテーブルの上に置き、駆け寄ってきた。

 メイドの夜番の部屋は一階、私や夫の部屋は二階にある。


 ただ、私達の寝室は分かれている。



 それは私達が結婚してまもなくそうなってしまったことだ。

 私達は家柄の近しい者同士が、紹介され結びついた。

 私はそれまで男性とは会話やダンスを楽しむ程度で、それ以上の付き合いをしたことは無かった。

 それは当時の淑女としては当然のことだった。


 だから、初夜の時に彼がベッドの上でいざ私の服を広げたその時になって「ごめん」と言って別室に行ってしまったことに訳が判らなかった。


 それ以来彼は、元々夫婦の寝室ではなく、書斎にやや大きな一人用ベッドを置き、寝泊まりする様になった。

 ただ昼間は朗らかに、良い主人ぶりをしてくれる。

 会話は豊富だし、優しいし、エスコートも完璧で、夫としては申し分が無い。


 ただ夜の営みだけが無い。


 これでは子供もできない。

 だがそうなると私も、意地でも夫婦の寝室で眠ろうという気が無くなり、彼と同じ様に自室にベッドを新たに入れさせ、日々の社交を忙しくし、泥の様に眠ろうとした。


 それが一年二年とそんな日々が続くと、周囲からの子供はまだか、とか召使い達の噂話が気になってくる。

 無論、夜の営みが無くとも私がこの家の女主人であることには変わりは無い。

 だが、気持ちはそうはいかない。

 眠りが浅くなる様なことが多くなる様になってきた。

 そんな時、時々夜中によく何かの叫び声だか、鳴き声だかが聞こえる様になった。

 ただそれは、微かなものだったので、最近は夜に犬や猫が多くなったなあ、と思う程度だった。

 だがこのところ、その声だか音だが大きく聞こえる様になってきた。

 そして今日である。



 音だか声だかは、夫の書斎に向かうにつれて、大きくなってくる。


「こ…… こっちですね」


 若い彼女の声は震えている。

 彼女も怖いのに着いてきてくれたのだ。

 主人として、そこはしっかりしなくてはならない。

 そしてぐっ、とドアノブを回し、開けた。


「ああああっっーー!」


 夫の声が書斎中に響いていた。

 ベッドの上では、夫が執事のターナカに後ろから貫かれて歓喜の声を上げていた。

 するとターナカは冷静な顔でこちらを向くと、閉めて! と合図をした。

 慌てて私達は中に入り、扉を閉めた。

 そのまま私達は彫像になった様に夫が果てるのまでの一部始終を眺めていた。

 ぐったりとベッドにうつ伏せる夫から自身を引き抜く執事のターナカは、着衣を殆ど乱していなかった。

 失礼、とばかりに緩めた前を閉め、シャツを元に戻し、タイを結び直せば、いつもの彼の姿になる。

 一方、夫は一糸まとわぬあられも無い姿のまま。

 優しげにターナカは彼の上にシーツを掛けてやっていた。


「これは一体どういうことです?」


 私は執事に問うた。


「奥様、今までお隠ししていて申し訳ございませんでした。実は」

「いいよターナカ、僕が言う……」


 夫はけだるげに身体を起こした。


「僕は女には欲情できないんだ」


 なるほど、と私は妙に冷静にその事実を受け止めていた。


「ターナカには僕が頼んだんだ」

「本当ですか」

「そこは奥様のご自由な解釈でお願いいたします」


 ターナカは執事と言えども、私達より数歳年上なだけの美丈夫だ。

 そして独身だ。

 メイド達の中でも狙っている者も多い。

 しかし独身であることに疑問を持ったことが無かった。

 私は妙に納得してしまった。

 そして何より、貫かれている夫のそこが、見事に屹立していることに私は目が行ってしまったのだ。


「君が好きな様にすればいい。この様な性癖を持つ僕は許せないなら、他の男と関係を持っても」

「……そういうのは、宜しくありませんわ。それにもしそんなことをしたならば、我が家の不利益につながるかもしれません」


 そもそも私は格別男友達とどうこうななろうという感情が薄いのだ。


「それに、もしそんなことして妊娠した時、生まれた子が相手と似てしまったらどうするのです。でも、私は子供が欲しいです。このまま石女と思われるのは嫌です」

「そうです、奥様がどれだけ皆に悪く言われているか……」


 そう言うと、ハリエットは泣き出してしまった。


「奥様はこんなにチャーミングで、お胸の形もお綺麗で、キスすればきっとその白い肌にどれだけ花の様に跡がつくだろうと、考えるだけでどきどきする方なのに……」

「は、ハリエット?」


 ふむ、とそんな彼女を見てターナカは顎に指を当て、少しの間、考えた。

 そしてまだ力の出ないだろう夫を抱き上げ、移動する様にとターナカは言った。

 場所は夫婦の寝室だった。



 それから私達は、五年で三人の子供に恵まれた。

 何ってことはない。

 あれから夫婦の寝室で、私達はそれぞれを愛する召使い達によって高められることで、繋がることができたのである。

 夫はターナカを少年時代から慕っていたし、ハリエットは私が嫁いできた時から憧れていたそうである。

 臥所では私達夫婦は目隠しをし、それぞれの相手によってこれでもかとばかりに乱され、お互いに濡れそぼったところで、タイミングを見て繋がる。

 首尾良くそれで私は妊娠し、見事に女男男、と子供を授かった。

 彼は父親になれたことをとても喜び、子煩悩な夫と有名である。

 私も周囲の夫人方から羨ましがられている。

 私達はお互いを盟友として大事にしている。

 また、ハリエットには急速な教育をし、私付きの侍女に昇格させ、身の回りの世話を近くですることを周囲に了解させた。

 彼女がターナカと好い関係という噂も流れているらしい。


 そして私達四人は、また今晩も夫婦の部屋で楽しい時間を過ごすのだ。

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扉を開けたら夫が執事に貫かれ啼いていた。 江戸川ばた散歩 @sanpo-edo

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