第55話 責任者会議へ向けて
直属の部下アズの自由な言動に振り回されて、夜勤の責任者であり属性過多のナルギに声掛けをして、専門職の責任者であると同時にヤンデレエルフのアティ相手に疲弊して。
シャルはそれほど「休息した」という感覚を味わえないまま、予定出勤時間よりも二時間ほど早くクレアシオンのダンジョンへ向かった。退勤してから休息している間にも何度も訪れたため、何やら心身ともに疲れ果てたままだ。
そうしてダンジョンへ向かう際、たまには息抜きに「次元移動」ではなく歩きで移動するかと街を出れば、目の下の陰を更に濃くしたロロと会った。どうも彼は、街周辺で何かしらの採取をしていたらしい。
「――もし神に「今すぐに
かれこれ三連続で――アズの証言も含めれば
「……………………ったく、バカ言ってんじゃねえよ、リーダー! 俺は絶対に選ばねえからな!」
出会い頭にそんな言葉を浴びせられたロロは、憎まれ口を叩きながらも「収納」から「モカフラペチーノ」と書かれたドリンクを取り出すと、シャルの手にグッと捻じ込んだ。
シャルはそれを受け取りながら「今、更に僕の中の天秤がロロに傾いた。僕をこんなにした責任を取って欲しい」と呟いて、笑顔でドリンクに太いストローを挿し込み吸い込んだ。
倉庫番のロロは、原状回復作業に従事していない間でさえ完全に仕事から離れられない。エリアの修復に使うために都合の良い土を集めたり、「収納」の中で薬草を育てたり、魚を増やしたり――モンスターを再生する際に必要な化学物質や動物の血肉なんかも、彼が集めてくれているのだ。
時には自分が所属するチーム分だけでなく、同じダンジョンで働くエルフ全ての要請に応えることもある。ロロの「収納」倉庫に保管された物の品揃えはそれほど膨大で、シャルは彼が「在庫切れだ」と言って要請を断っているところを一度も見たことがなかった。本当に責任感のある男である。
――まあ、少なくとも初級ダンジョンであるクレアシオンでは、そこまで神経質にならずとも十分にやっていけるだろうとは思うが。
出現するモンスターもエリア内で使われるアイテムもありふれたものばかり。何か珍しいものを宝箱に入れようと思えば、それはもう神のポイントショップを使った方が早い。用意する手間を考えれば、かえって安上がりのはずだ。
「今からダンジョンまで行こうと思っているんだが、ロロも一緒に行かないか。たまには歩きで」
「はあ、まあ、俺もそろそろ行こうと思ってたんで別に良いッスけど……リーダー、マジで今日話し合いしてる最中にはさっきみたいなことを軽々しく言わないでくれよ。またナルギさんに絡まれるから」
大好きなはずのシャルが相手でも「キモ童貞」なんて言葉を浴びせるくらいだ。ナルギの口の悪さは筋金入りである。
これが、ただでさえ目の敵にされているロロが相手ではもっと酷い。滅多な悪口では凹まないロロがこれでもかと意気消沈するのだから、よっぽどだ。
「円滑なコミュニケーションを図るためだから仕方がないとは言え、好きなものを好きと言えないのは難儀だ」
「だ~か~ら~辞めろって! 俺にそんな趣味はねえの! 尊敬だっつってんだろ! もう何も出ねえからな!?」
言いながら再び「収納」の中に手を突っ込んでいるロロを見て、シャルはますます笑みを深めた。
誰が相手でも祖父以外は同じ。好きや嫌いという感覚さえイマイチ理解できないシャルだが、ただ素直になれないだけで比較的まともなロロのなんと好ましいことか。おだてる度にチョコレートが出てくるところも含めて素晴らしい。
これは好き嫌いの感情以前の問題で、ただシャルが平穏な日常を送るのに楽な相手なのだ。エルフには珍しく極端に髪が短いのも認識しやすくて助かる。
「とりあえず、ナルギとアティには今日の議題について事前に話してある。アティは体調不良――もとい議論する価値なしとのことで欠席だが、僕らの決定には従ってくれるそうだから」
「僕
「……そうとも言うかも知れない。恐らく後でアズも来るだろう、今日はヤツのプレゼンだしな」
ロロは「うぃーす」と軽い相槌を打つと、途端に思案顔になった。
「実際問題、こんなことして神が黙認すると思います?」
「さあ、どうだろうな。もしかするとダンジョンに穴を開けた時点で、僕らも
「……諸刃だなあ」
「しかし、成功すればリターンは大きい。普段の仕事が楽になるし、新米冒険者は死に辛くなるし……新規エリアの原状回復担当になった日は楽しくて仕方がないだろうな」
「まあ、それは言えてる」
「楽ができるようになったら、ロロはもう少し睡眠時間を長めに取った方が良い。倉庫番を任せておいて言うのもなんだが、お前は働き過ぎだから」
ロロはどこか照れくさそうな笑みを零すと、「これで最後ッスからね」と言って「収納」の中からココア缶を取り出した。
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