第21話 魔法の効果範囲
シャルは両脇に華を
クレアシオンのダンジョンは、見た目も中身も完全な洞窟型である。
テルセイロと違って地下へ潜る訳ではないので、それほどカビくさくなく壁に苔も生えてない。入り口エリアと一部天井が崩れたエリアでは、外の光が差し込む場所もある。ダンジョンの中では割と小綺麗な方だろう。
入ってすぐのエリアから、分かれ道が左右に続く。
どちらに進んでもそれぞれ違うスライムの巣へ繋がっていて、その先は細い通路になっている。やがて二本の通路は交わり、ゴブリンの巣へ続く。
そこからまた長い通路を抜ければボス部屋で、更に通路が続いて最奥が宝物殿。外へ出るには元来た道を戻るしかない。
全体的に狭い造りで、しかも全てのエリアは木の扉で
エルフ族は仕事の待機中、常に「収納」の異空間に身を潜めている。「収納」とは、発動したその場所に異空間倉庫への出入り口を開く魔法だ。
次元を越えて移動するような魔法ではないため、一度作った出入口の座標は変えられない。ダンジョン内に不可視の倉庫を呼び出すようなものである。
だから例え異空間の中に入っていようとも、ダンジョンの外へ出たことにはならない。いざ仕事が始まった時に異空間の中でサボろうものなら、問答無用で休憩としてカウントされてしまう。
また、発動者が異空間の中に入ったまま出入口を閉じることも可能だ。その異空間に片目で覗けるほどの小さな穴を開けて、エリアと冒険者の様子を監督するのだ。
この待機時間こそが、タイムカード上「実働」として換算される。そして冒険者が汚し終わってエリア移動したら仕事開始の合図で、すぐさま「時間停止」の魔法を発動する。
ちなみに、複数エリアあるダンジョンでの時間の止まり方には法則がある。発動したエリアと隣り合う通路、それからダンジョン周辺の外の時間だけが止まって、二つ以上離れたエリアについては止まらないのだ。
例えばスライムの巣その一で清掃が必要だからと「時間停止」を発動した場合、ダンジョン内全てのエリアがぴたりと止まってしまっては大変面倒なことになる。
スライムの巣その二、ゴブリンの巣、ボス部屋、宝物殿。全てのエリアに冒険者とエルフの清掃チームが存在するのだ。
だと言うのに、たった一エリアの清掃をするためだけにダンジョン全ての時間を止めてしまえば――魔法を関知できないヒト族はともかくとして、別エリアで待ちぼうけを食らうエルフが出てくる。
通路ではなくエリア内で冒険者の時を止めてしまえば、どうなるか。
今まさにモンスターと戦っている最中かも知れないし、薬草を採取しているかも知れない。そんな状態で「時間停止」されても、エリアの原状回復などできるはずがない。
しかも停止中に仕事せずに待機していると「休憩」として減算される仕様なのだから、堪ったものではない。
だからこそ、全てのダンジョンにはエリア間に細かく通路が設けられている。恐らく、神もよくよく考えてからダンジョンを創り出したのだろう。タイムカードの計算だってエリアごとに分かれているのだから。
ちなみに、清掃エリアから離れたダンジョンの外と隣り合った通路まで時間が止まるのは、清掃中に冒険者が侵入してくるのを防ぐためだ。
どうせ魔法の効果を受ける該当エリアまで入り込めばヒトの時が止まるとは言え、もしも扉だけ開け放って中をまじまじと見られたらおしまいである。
「シャルルン、今日から新人さんが来るんでしょう? クレアシオンで中途採用なんて珍しいねえ~」
「中途採用というか異動だ。
シャルと同じ職場で働きたいがために無茶を繰り返していただけと言うならば、アズもここクレアシオンでは打って変わって大人しくなるかも知れない。
今まで散々迷惑を掛けられてきたとは言え、己の目で彼の勤務態度を確かめるまでは見限らない。シャルはまだ、彼の可能性に
「エド先輩って本当に大らかというか、無頓着というか――普通もっと警戒しませんか? もちろん、そういうところも尊敬していますけど……」
「理由なくミスを繰り返すようでは恐ろしいが、明確な意思をもってミスを重ねているなら可愛いものじゃないか」
「アッ、アザレオルルを可愛いだなんて言わないでください! アザレオルルを「可愛い」と言った数だけ、私のことも「可愛い」と言ってもらわなければ納得できません!」
「よく分からないけれどぉ、仲間外れは寂しいから私とロロちゃんのことも可愛いって言って~?」
ロロちゃんとは、まだ出勤してきていないロデュオゾロという男エルフの愛称だ。
トリスよりもいくらか先輩だが、クレアシオンではまだ新人のくくりに入る。その割にいつも遅刻ギリギリで出勤してくるのだから、胆が据わっているというか勤務態度が悪いというか――。
シャルは虚ろな眼差しで壁を見ながら、棒読みで「アー……カワイイ、カワイイ……」と繰り返した。するとトリスがワッと両手で顔を覆う。
「酷い、全く心がこもっていません……! 街のおしゃべりロボット
「その言葉の方が酷い」
「や~ん、私シャルルンみたいなTEPPANくん欲しい~」
「それはまた別の話だな……」
女性二人に騒がれながら時計を眺めていると、不意に通路側の扉が開いた。奥からやって来たのは、今まさに話題に出たばかりのアズだった。
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