宇宙を旅する女帝陛下は、超弩級宇宙戦艦の艦長

エディ

プロローグ

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 俺、西野誠にしのまことは、気が付くと駆逐艦ルーンブレイカーの艦橋ブリッチにいた。


 ルーンブレイカーは駆逐艦とついているが、海洋航行を目的とした船ではなく、宇宙船だ。


 つまり俺が今いる場所の周囲は、宇宙空間ということになる。

 間違っても、地球じゃない。


 現に、目の前に映し出されている艦橋ブリッチの外部映像は、漆黒の闇の中に、点のように白い星々が無数に広がっていた。


 大気圏内であれば、空気の層によって揺らぎ瞬く星も、真空の宇宙空間では、瞬くことなくその場に確と存在している。



 なお、俺は間違っても超未来に生きている宇宙人でなく、西暦21世紀にいる、ごくごく普通の日本人。

 間違ってもただの一般人が、「気軽に火星までちょっと旅行に行ってくる」なんてできる科学技術なんてない。


 21世紀の初頭は、莫大な金を積むことさえできれば、民間人が宇宙ステーションに行くこともできる時代だが、それでも漫画や小説の世界のように、気軽に宇宙旅行ができるわけじゃない。



 それなのに、俺が宇宙船の中にいると気づけた理由は、超単純。


 SFシミュレーションゲーム『Eternal Galaxy』。

 発売から20年に渡って、ほぼ毎日飽きることなくプレーし続けてきたゲームの中に俺はいるからだ。


 大事なことなので、もう一度言う。

 20年間プレーし続けている、俺の汗と涙と鼻水とションベンと、ゲホンゴホン……とにかく、青春の諸々が詰まりまくっているゲームだ。


 そこっ!青春だけじゃなく、中年も入ってるだろうと突っ込んではいけない。


 俺の人生の大半をつぎ込んで、プレーし続けているゲーム。

 流石に毎日何十時間もプレーしているわけではないが、それでも日に2、3時間は最低でもプレーしていた。



 そんなゲームの世界の光景が周囲に広がっている。

 モニター越しとはいえ、毎日見ている光景を見間違えるはずがない。



 そしてルーンブレイカーは、ゲーム内で使用頻度第2位にくる、俺の乗艦だ。


 と言っても、ルーンブレイカーの艦長は、プレーヤーである俺ではないけどな!




 そこでふと、今の自分がどうなっているのか気になった。


 椅子に座っている状態で、考え事をしている時の癖で足を組んだんだけど、その拍子に俺の足が見えた。


 裾の短いスカートから覗く、長くてスレンダーな美脚が!


 短足とまでは言わないものの、日本人の短い脚とは比べ物にならない、めちゃ長い美脚だ。

 玉のようなお肌で、シミ一つないどころか、ツルッツル。


 試しに手で触ってみれば、あまりのスベスベさに、手が滑りそうになった。


 男の脚ではない!

 毛なんてただの一本もない。

 間違いなく、女の美脚!



「ウオッホッ!」


 思わず興奮してしまい、慌てて自分の鼻をつまむ。


 いや、ここは鼻でなく、目頭をつまんだと言い直しておこう。

 思わず鼻血が出てきそうになった訳じゃないからな。


 俺は変態ではない。



 しかし、リアルで女性の生足を間近で拝めるなんて、人生で初めてだ。

 てか、そんな女性の美脚を自分の手で触ったぞ。


「フオッホッ!」


 いかん、またしても魂の雄叫び(奇声)が出てしまった。




 しかし、これはどういうことだ?



 俺はもしかして、女に生まれ変わってしまったのか?



 辺りをキョロキョロと見回すと、座っている椅子の黒い肘掛けが、鏡のように周囲の光景を反射していた。


 今の俺は一体どうなっているんだと、肘掛けに反射している自分の顔を確かめてみる。


 するとそこには、金髪に紅の瞳をした女性がいた。

 ただし、その眼光は鋭い。非常に鋭すぎて、剣呑さが漂っている。


 顔立ちは物凄く整っている美人さんなのに、あまりの鋭い視線に、思わずビクリと震えさせられた。


 この人、美人だけど、絶対に気が強い。確実に女王様気質だ。

 顔を見ただけで、性格が分かってしまうレベルだ。



 だが、この顔には見覚えがある。


 『Eternal Galaxy』での俺のプレーヤーキャラ、マノス・ビスマートなのだ。


 親の顔より見ている、ゲームのプレーキャラだった。



「ああ、なるほど。これは夢だな」


 一瞬、ゲームの世界に異世界転移なんて可能性テンプレを考えたが、俺はリアルでは30を過ぎているおっさん。

 間違っても、よくぼうと現実を混同してはいけない。



「なーんだ、夢か」


 20年もプレーしているゲームだ。以前にも『Eternal Galaxy』のキャラになった夢を見たことが何度かある。


 まあ、その時はプレーキャラで女王様気質の美人キャラ、マノス・ビスマートではなかった。

 何故か宇宙ステーションの隅っこでゴミ掃除している清掃ロボットDとか、緑色の体液に複眼を持った昆虫人類Oとか、「フボラー」と叫んで、乗っている宇宙船ごと爆発四散する宇宙海賊Ωなんてキャラだったけど。


 夢の中とはいえ、とんでもない役回りのキャラにばかりなっていた。



 だが、ついに20年目にして、念願のプレーキャラになった夢だ。


「ワッホーイ」


 もう、嬉しくなって、思わず叫んじゃったぞ。




「司令、大丈夫ですか?」


 あまりに嬉しくなって叫んだけど、横から呆れと驚きの混じった声がした。


 女の子の声じゃないよ。

 野郎の声だ。



 声のした方を向くと、黒髪にアメジストの目をした、イケメン野郎がいた。

 キリリとした顔立ちをしていて、年齢自体はまだ20歳にも届かない若さ。

 精悍さと好青年ぶりを兼ね備えた、チート顔面偏差値をしていた。


 この男の半分、イヤ4分の1でもあれば、リアルの俺の人生は、きっとバラ色だったに違いない。


 この野郎の名は、レイン・ウォーカーという。


 ゲームでの俺の部下の1人であり、この駆逐艦ルーンブレイカーの艦長だ。

 艦長ではあるが、何やらせても高水準でオールマイティーに活躍できるNPCなので、ルーンブレイカーの艦長兼、その他諸々の雑用を押し付ける係を兼任している。


「……なんでもない」


 夢の中とは言え、今の俺はマノス・ビスマート。

 たかだか、野郎1人に奇異な目で見られていい存在ではない。

 マノス様は、お前などとは比べ物にならないほど偉い、殿上人なのだよ。

 ハッハッハッ。


 もちろん、そんなことを内心で考えているなど、顔面には出さずにおく。


「ですが、変な雄たけびを」


「ああんっ!?」


 レインの奴が、何か言ってこようとしたので、俺はドスの利いた声で黙らせた。


 というか、美人の声なのに、物凄く怖い。

 昔見たヤクザ映画に出てくる、姐さん組長みたいにドスが効いていた。



「……」


 効果はてきめんで、レインは俺から慌てて視線を逸らし、艦の指揮に集中するそぶりを見せる。



 フフフッ、流石は女王様気質のマノス様。

 凄んだだけで野郎を黙らせることができたぜ。


 まあ、俺も手すり越しに姿を見た時は、思わずちびりそうになるくらい剣呑な視線で怖かったけどなー。




 しかし、ここは夢の中とは言え、これから俺は何をしよう。


 とりあえず、野郎のことは放置。


 ゲームをプレーしていた時の感覚で、艦橋に表示されている戦略図タクティカルスクリーンへ視線を向けた。



 戦略図には、俺が20年間プレーしてきた銀河系の地図が表示されている。


 その中から移動と拡大縮小を使いながら操作して、現在ルーンブレイカーがいる星系の地図を拡大表示させる。

 この辺りはゲーム時代のままなので、操作の仕方で苦労することは全くなかった。




 そして近くに、未確認船籍の宇宙船が3隻存在しているのを確認。



「……宇宙海賊か?」


 戦略図では未確認と表示されているが、今までのプレー経験から、正体がおおよそ把握できた。




「海賊退治も久しぶりに面白いかもしれないわね」


 マノスは、ニヤリと口の端を歪めて笑った。



 ただ、なぜかこの時女口調になっていた。

 意識して女口調をしたつもりはなかったけど、なぜか自然と女口調だった。


 まあ、今の俺はマノス様だから問題ないか。

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