恵まれた青年
味醂
恵まれた青年
「お前は恵まれているんだ」
この言葉を小さい頃から呪いのように青年に取り憑いていた。
青年はこの言葉が嫌いだ。
青年は、恵まれた家に生まれた。
父の年収が1000万を超えていたからだ。
教育熱心な母のもとに生まれた青年は小さな頃から沢山の習い事をした。
厳しい母の言うことをきいて青年は育った。
仕事とギャンブルにしか興味のない父とはその頃から疎遠になっていった。
母は青年に中学受験をするように言った。
青年はみんなが周りで遊んでいる中1人で勉強し、私立の有名な学校へと入った。
その学校は大学までエスカレーターで進学でき、その代わりに高い学費のかかるところだった。
その学校は野球の強豪校だったので、母の言うとおり野球部に入り、部活漬けの6年間を高校最後まで過ごした。
青年は朝から晩まで練習したし、休みだってほとんどないのに6年間頑張った。
野球の才能も特にない青年は沢山の苦労と挫折を味わったが、それでも最後までやり切った。
周りの人からも
「よく頑張った」
という言葉をかけられることもあった。
しかし、それよりもかけられたのは
「野球ができたのは親のおかげだよ」
「親に感謝しなさい」
「お前は恵まれているんだぞ」
という言葉だった。
いつもそうだ。
青年だって頑張っているのに、、
ギャンブルばっかりして教育なんてしてこなかった、それでもお金を稼いでいるから父の方がえらいし頑張っていると褒められる。
青年には昔からの友人Aがいた。
Aは恵まれない家庭に生まれた。
稼ぎの少ないシングルマザーの家庭に生まれたからだ。
お金のない家に生まれたAは、中学生からバイトを始め、欲しいものはなんでも自分のお金で買い、自分の力で生活してきた。
母と共に努力してきたAは母ととても仲が良かったし青年から見てもAはいつも楽しそうだった。
Aは周りからもたくさん褒められた。
「Aは本当にすごいね」
「大変だっただろうに自分の力でよく頑張った」
青年とAは対象的であった。
受験もせずに大学へ行く青年に向かってAはよく
「羨ましい」
と言った。
しかし、何をしても親のおかげだと言われ、青年は恵まれていることが果たして幸せなのかわからなかった。
青年からすれば、頑張れば褒められて、楽しい家族がいるAのほうが「羨ましかった」。
青年はもちろん親のおかげでいい生活ができているし、物に不自由したこともない。
しかし、青年の心はいつもどこか満たされることがなかった。
恵まれた青年 味醂 @anpurin
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