夫のホンネにがっかり

わたしが大阪で夫と同棲していたころ、

夫は晩ご飯と弁当を作ってくれていました。

わたしは夜遅くまで仕事だったので、

このサポートが有り難かった。


結婚間近になって、上司から

東京に長期無期限出張を命じられました。

婚約のことは話していたんですが

上司は「聞いた覚えが無い」

そこでわたしは仕事をやめ、

夫の故郷広島へ。


結婚したあと、義母と同居になりました。

食事の味付けは、我が家で習ったことがなく、

義母からは、初歩の初歩から教わりました。


そういう事情なので、夫が、

「結婚したらご主人の味覚に合わせるのが普通」

と言ったときには、

反論できませんでした。

もし、わたしがバッチリ家事を習っていたら、

夫にこんなことは言わせなかったハズです。


料理の味付けは、家の伝統。

婚家の伝統と嫁の伝統があわさって、

ひとつの家の伝統になっていく、ということを

なにかの本で読んだことがあります。


嫁の伝統をひとつも持っていないわたしには

夫の伝統しか、残されていないわけです。

亡き母がキッチリしていなかったおかげで

対立しなくて済んだわけですが

どうも、釈然としない。


不味いわたしの手料理よりも

義母の味の方が、美味しいことはたしかなんです。

でも、そういう問題なのか。


子どものいないわたしは、

伝えるべき伝統なんてありません。

「あなたの色に染まります」

てな具合に、料理の味付けはすっかり婚家の伝統。


一抹のさびしさがあります。

自分の母が、この家では評価されない。

死んだらそれっきりってこと。

もし、わたしに娘が生まれていたら

夫は、「結婚したら夫の味にあわせろ」って

言うのかな。

だとしたら、ガッカリだな。


子どもがいなくて幸いでした。

小さなことだけど、重要なこと。

それが、味付け。

結局、家事の集約って料理だと思う。

だから、わたしの料理が伝わらないままに

終わっていくんだろうと思うと、

胸に冷たい風が吹く気持ちになります。

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