第133話 出発前に渡したでしょ

 郵便屋さんが呼んでくれた警察との長いやりとりを終え、家に帰ることができたのは夜になってからでした。簡単な晩御飯を済ませた後、僕は、師匠から事のあらましを告げられました。


 僕が誘拐され、倉庫に閉じ込められている頃。僕の帰りが遅いことを心配した師匠が、最近研究していたというとある魔法を使ったそうです。それは、特定の物を探す魔法。ひとたびその魔法を使えば、地図上に「自身の魔力が込められた物」がどこにあるのかを示してくれるそうです。僕にとっては、あまりにも高度過ぎる魔法ですね。


「……あれ? でも、僕、師匠の魔力が込められた物なんて持ってましたっけ?」


「持ってるよ。出発前に渡したでしょ」


「出発前…………あ!」


 ピンときた僕は、ローブの内ポケットからとある紙を取り出します。それは、僕が家から出発する前、師匠に手渡されたもの。水質調査の手順が書かれたメモです。


「もしかして、これですか?」


「正解。文字を書くのに、魔法を使ったからね。私の魔力が込められてるのと同じ扱いなんだよ」


「なるほど……」


 僕は、メモを開いて中を確認します。書かれているのは、とても細かな文字。もし師匠が手書きでメモを書いたなら、もっと大きくて雑な文字になっていたことでしょう。


「……君、何か失礼なこと考えてない?」


「ナ、ナンノコトヤラ」


 思わず顔をそらす僕。そんなに分かりやすいですかね。僕の考えていることって。


 師匠は、呆れたように「まあ、いっか」と言って、僕への説明を続けてくれました。


 町の郊外にある倉庫に僕がいると知った師匠。倉庫は、本来の目的地である湖とは全くの逆方向。師匠は、僕がもしかしたら誘拐にあったのではと考え、郵便屋さんに助けを求めたそうです。本当なら、郵便屋さんが呼んだ人たちとともに倉庫へ向かう予定でしたが、それでは時間がかかるということで、師匠が一人で倉庫へ急行。魔法で中の様子を伺ってみると、丁度、男性がナイフを僕に向けている場面に遭遇。倉庫の扉を破壊し、中へ突入したというわけです。


「無事でよかったよ。本当に」


 そう告げる師匠の顔には、優しい笑みが浮かんでいました。

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