第131話 来ないでください!

「死ねやあああ!」


 ナイフを振りかぶり、師匠に襲いかかる男性。


「師匠!」


 僕は、師匠の腕を掴み、自分の方へ勢いよく引っ張りました。そして、師匠の体を左手で抱きかかえながら、急いで後ろに下がります。


 空を切る男性のナイフ。ですが、男性は再度ナイフを振りかぶり、こちらに襲いかかってきます。右目から血を流し、左目だけを開けている状態。「うがあああ!」と叫び声を挙げながら、僕たちに殺意を向ける姿。それはもう、同じ人間であるとは思えませんでした。


 無我夢中で手を伸ばす僕。その先には、師匠が持つ杖。


「来ないでください!」


「うがああ……ぐげ!」


 僕が魔法で出した壁。それに男性が勢いよくぶつかり、奇怪な声をあげます。そのまま、壁にもたれかかるように、ズルズルと倒れていきました。


「…………」


「…………」


 ハア、ハアと肩で息をする僕。それは、師匠も同様でした。おそらく、師匠も相当に焦ったのでしょう。眠らせたはずの男性が、自分たちを襲ってきたという事実に。


「師匠……何でこの人……」


 僕の言葉に返答することなく、倒れた男性を見つめる師匠。やがて、僕たちの呼吸が整ってきた頃、「多分だけど……」と師匠は口を開きました。


「彼のローブが関係してるんじゃないかな?」


「ローブ?」


「うん。私、今までいろんなローブを見てきたけど、あんまり見たことないタイプっていうか……。もしかしたら、自分が魔法で攻撃された時に威力を抑える効果が……。いや、すぐに襲ってこなかったってことは、魔法で攻撃されてからしばらくして発動するような何かだったり……?」


 ブツブツと呟きながら考えに耽る師匠。


 そういえば、男性の仲間が、ナイフを男性へ渡す前に漏らしていましたね。ローブが特別だとかなんとかって。

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